毎晩23時に届く不在通知SMS
2026年08月22日
一人暮らしを始めて三ヶ月目の頃の話です。
私は東京・世田谷の古いマンションの一室で暮らしています。築四十年の木造アパートで、壁が薄く、隣人のテレビの音や笑い声がもろに響いてくる物件です。
そのうち、ある出来事が始まりました。
毎晩、正確に23時00分にスマートフォンが振動し、宅配便会社の不在通知SMSが届くのです。
「本日のお届け物をお受け取りいただけませんでした。お問い合わせはこちら→0120-XXX-XXXX」
最初は「あ、今日届くものがあったっけ」と思い、アプリで確認しました。確かに、「佐川運輸」の名前で、私の住所宛ての届け物が記録に残っている。でも、私は何も注文していません。
「バグかな」と思い、SMSを削除して寝ました。
次の日、また同じ時間に来ます。
「本日のお届け物をお受け取りいただけませんでした。お問い合わせはこちら→0120-XXX-XXXX」
同じ文章。全く同じ文章。文字数まで同じです。
「SMSのアドレス帳がバグってるのか」と思い、電話番号を確認しました。確かに配送会社の公式番号でした。でも、アプリには何も登録されていない。
三日目、四日目、五日目――毎晩、正確に23時に届きます。
もう嫌になって、23時にアラームをセットして起きていることにしました。画面が点灯し、SMSが届く瞬間を直接見るのです。
届きました。
でも、おかしいことに気づきました。
SMSが届く0.5秒前、部屋の明かりがわずかに暗くなったのです。蛍光灯のチカチカではなく、まるで何かが電気を吸い取られたような、微かな暗転です。0.3秒で元に戻ります。
そしてSMSが届く。
私はスマホのカメラを向け、部屋の中を撮影し始めました。誰もいない。押入れも開けた。クローゼットにも入らない。
七日目、SMSの内容が変わりました。
「お届け物をお待ちしています。もうすぐ到着します。」
胸が詰まりました。私はドアチェーンをかけ、スマホで110番に電話しようとした瞬間、玄関のドアノブがゆっくりと回りました。
回った。
でも、ドアは開きません。チェーンがかかっているから。
回っているのは、外からではなく、内側からでした。
チェーンが軋む音。金属が金属を削れる、低い音が、三十秒間続きました。
そして、静かになりました。
その夜以降、SMSは届かなくなりました。
でも、今でも毎晩23時になると、部屋の明かりがわずかに暗くなります。
そして、ドアノブが、ゆっくりと回る音が聞こえるのです。
外からではなく、内側から。