市役所建築確認課の資料室に勤めていた頃、私はある規則に従うことを強いられた。月末になると、担当職員は直近三十年分の「完了通知」ファイルを全件精査し、デジタルデータと紙面の間で齟齬がないか確認する。

その際、一度も実際に現場を閲覧することが明記されていた。

最初の違和感は第三日の話だ。「西八丁目住宅第二号棟建設完了通知」「東六丁目共同住宅第三計画完了申請」——どれも平成七年から十五年にかけて出された完了通知で、いずれも提出者署名、確認番号、竣工図面添付が備わっている。しかし私の上司は「数字が合えばいいのだ」と言い放ち、その瞬間、何か重要なことを見逃していると感じた。

七日目のある時、私はふと紙面の隅に小さな注釈を見つけた。「建築完了検査官:佐久間 純一郎」の署名の下に、鉛筆で極小文字で「未完成但し確認済」と書かれているのだ。

佐久間純一郎という人名は私には馴染むものではなかったが、資料室の索引を辿ると、彼の名前が平成六年十二月に人事異動で「退職」した一週間後に完了通知の件数が倍増していることに気づいた。

その夜、私は自宅から市役所建築課の外部サーバーに接続して、完了通知ファイルのメタデータを抽出し始めた。完了申請された建築場所の座標と実際の衛星画像を突き合わせると、奇妙な結果が得られた——七件全てにおいて該当する建築物は存在していなかったのである。

しかし資料には「竣工日」「検査通過日」「完了届受理番号」がすべて備わっていた。数字上、これらの建物は正確に完了していたように記録されているのだ。

私の心臓は早鐘を打ち始めた。さらに調べを進めると、佐久間純一郎の署名が入った七つの「完了通知」に対応する現場で、当時の建築請負業者十七名のうち九名が連絡不能になっていることが判明した——彼らは確認済みの建築現場に赴いた際に行方知れずとなったのである

私は上司の机の前に立った。「この佐久間の署名が入ったデータは、全部確認すべきではありませんか」

上司の表情が変わらなかった。

「資料室の職に命じられているのは『齟齬ないか確認する』だけだ。建築を確認しろとは言われていない」。彼は言った後、机の上のペンケースを開け閉めし、「佐久間はもうここにはいない」と呟いた。

その瞬間私は気づいた——完了通知に記載されている「建築者氏名」欄がすべて佐久間本人の名前になっていることに。彼自身が「完成した」と宣言するだけで完成として扱われていたのだ。私が七件の建物を現地で確認しようものなら、私自身も九人目の「連絡不能者」に加わる可能性があると理解した。


市役所建築課資料室の棚に並んだ完了通知書の山

私は今も月末の精査を続けている。齟齬がないか確認するだけだ——建造物の確認はその対象外であるから。ただ、佐久間の署名が入った最新の完了通知が先週届いたことに気づいて以来、毎日夜目が覚めるようになったのです。


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