mystery-envelope

毎朝、朝一番でポストを開けると、白封筒が入っていた。

住み始めて三ヶ月目のことだった。東京都心から電車で四十分のところにある、築二十年の団地の一階に住んでいる。大家さんは普段顔を見るくらいで、ほとんど面識がない。管理人さんは朝の七時に館内を巡回するらしいが、それ以外では会ったことがない。

ある月曜日の朝、いつも通りコーヒーを淹れてポストを確認すると、白封筒が入っていた。薄手の封筒で、表面に差出人も宛名も書かれていない。ただ、封筒の右下に小さな印が押してある。丸い印で、何のマークなのかよくわからない。

「ポストの誤配かな」

そう思って封筒を台所に置き、仕事に出かけた。帰宅すると、また白封筒が入っていた。同じタイプの封筒で、同じ場所に同じ印。宛名も差出人もない。

「また来た」

二日目も同じだった。三日目も。四日目も。

封筒の中身は空だった。最初のは中身が何も入っていなかった。二番目も三番目も。ただの白い紙が一枚、封筒の中でサラサラと音を立てるだけ。

でも、封筒が毎日入ってくる。

大家さんに相談しようと管理办公室へ向かったが、中はガラガラだった。掲示板には「水道管の修理により、来週水が使えない日があります」といったようなお知らせが貼ってあるだけで、誰かの連絡先も書いていない。

住人たちとは廊下ですれ違う程度で、名前すら知らない。

封筒は毎日、毎日、毎日入ってくる。

ある日、封筒を開けるのが怖くなって、開けずにそのままにしておいた。次の日、また新しい封筒が入っていた。古い封筒の上に重ねられるように。

封筒が十通、二十通、三十通と溜まっていく。

四十通目くらいで、私は封筒の印をよく見た。丸い印の中に何かが描いてある。拡大して見ると、それは人の目だった。二つの目が、封筒の右下、小さく、しかし確かに描かれている。

その夜、私はポストのそばに隠れて待っていた。深夜二時。団地は完全に静まり返っている。

すると、足音が聞こえた。

廊下を、ゆっくりと、近づいてくる。

私の部屋のポストの前に、誰かが立った。紙を握っている音がした。封筒をポストの穴に差し入れる音。

足音が去って、部屋に戻ってポストを見ると、白封筒が入っていた。

次の朝、封筒を開けて中身を見ると、白い紙の上に、黒いインクで何か書かれていた。

「もう、見なくていい」

その瞬間、ポストの穴から、白い紙の切れ端が、そっと押し出されてきた。

それは、私が先ほど開けた封筒の中から取り出した紙だった。

封筒は空だった。

なのに、紙が戻ってくる。

それ以来、毎日、封筒が入ってくる。中身は同じ一言。でも、そのうち、一言ではなくなるかもしれない。

ポストの穴から、何かが出てくるかもしれない。