実話。元同僚のTが話したことがある。

地下へのエスカレーター

Tは丸の内のオフィスビルで残業していた。深夜二時頃、エレベーターがメンテナンス中で使えないという掲示があった。

仕方なくエスカレーターで地下の駐車場に行こうとした。

一階から地下一階へのエスカレーターは普通に乗れた。しかし、地下一階から地下二階のエスカレーターに乗った瞬間、奇妙なことに気づいた。

エスカレーターの速度が、明らかに遅くなっているのだ。

「またメンテナンスか」とTは思った。

しかし、エスカレーターは止まらない。ただ、ゆっくりと、ゆっくりと下りていく。

Tは腕を組んで待った。三十分経つだろうか。まだ下りている。

「おかしいな」とTは思った。このビルは地下二階までしかないはずだ。

しかし、エスカレーターは下がり続ける。

壁の表示板には「地下三階」「地下四階」と書かれている。

Tは愕然とした。このビルに地下三階なんて存在しない。

エスカレーターから降りようとしたが、手すりもステップも動いていない。エスカレーター自体が動いているのに、ステップが止まっているのだ。

Tは必死で手すりに掴まり、エスカレーターから飛び降りた。

床に着いた瞬間、エスカレーターが再び動き出した。

Tは振り返った。エスカレーターの先には、暗い廊下が延々と続いている。

その廊下の奥に、エスカレーターがもう一台あった。

上りエスカレーターだ。

Tは走ってエレベーターのメンテナンスの掲示のある場所に戻った。エレベーターは使えるようになっていた。

しかし、その夜、Tがエレベーターで一階に戻った時、エントランスのエスカレーターが動いていたことに気づいた。

エントランスのエスカレーターは、夜中は必ず止まっている。

エスカレーターの上には、誰かが立っていた。

Tがエレベーターのドアを閉めると、エスカレーターの上の人物の姿が、ガラスの向こうに消えた。

今でもTは、オフィスビルのエスカレーターを見ると息が止まるという。