深夜のインターホンと、見知らぬ配達人
2026年12月08日
実話です。僕が一人暮らしを始めて二ヶ月目の話。
深夜二時すぎだった。テレビの音も消え、寝室の明かりも落とした後、ふとドアホンが鳴った。
モニターを確認すると、配達人の姿がいた。制服を着て手に小さな段ボール箱。画面は暗くて顔ははっきり見えないが、配達アプリの注文履歴には該当するものがない。
「誤配達かな」
インターホンの通話ボタンを押した。
「失礼しました。お届け物がないので」
向こうから返事があった。低い、しかし明瞭な声。
「お部屋の番号、間違えました。お気になさらず」
それから足音が遠ざかる音。エレベーターの「ピッ」という音もした。
少し安心した。しかし、おかしいことに気づいたのだ。
僕の住んでいるアパートは、エレベーターがない三階建て。廊下を歩いた足音が、階段を降りる音が聞こえたはずがない。
その足音は、エレベーターのボタンを押すような「カチッ」という音の後に、静かになった。
翌朝、大家さんに話したら笑われた。
「うちエレベーターないよ。三階まで階段だぞ」
でも、その夜聞こえた足音は、確かに階段を降りる音ではなかった。
何かに、階段を踏む音を模倣するように、一定のリズムで、下へ向かう音だった。
一階の玄関の扉が開く音もした。
それから、僕のアパートの廊下に戻ってくる足音。
階下から、僕のアパートのドアの前で、止まる音。
インターホンが、もう一度鳴った。
モニターを見ると、配達人はもういない。代わりに、床に小さな段ボール箱が置いてあった。
開けてみると、中には僕の古い名刺が数十枚、入っていた。
僕がもう使っていない、前職の名刺。
配達アプリには、誰にも頼んでいないのに、「お持ち帰りありがとうございます」という配達完了通知が来ていた。
それ以来、深夜のドアホンが怖くて、スマホの通知を夜中に切っている。
でも、時々、夜中にスマホが振動する。
配達完了通知が、来ていることがある。