深夜のエレベーター

7階で止まるエレベーター

僕の住んでいるマンションは全80室、20階建ての築15年の物件。

エレベーターは2基。朝のラッシュ時はともかく、深夜ならどちらか片方で十分回る。

ただ、一つだけ奇妙なことがある。

毎晩2時半頃、エレベーターが7階で勝手に止まること。

管理人さんに相談したことがある。

「うちのマンションのエレベーター、夜中によく7階で止まりませんか?」

管理人さんは少し考えて、それから言った。

「あ、そういえば。確かにそうですね。もう3年くらい続いてますよ」

「故障じゃないんですか?」

「点検では何も出ないんだよね。センサーが反応してるみたいだけど、7階には誰もいない」

7階には誰もいない。

そう、7階にはもともと部屋がない。

7階は存在しない

このマンションの階数表示は、4階の次が8階になっている。

4階 → 8階 → 9階 → …

7階は存在しない。

でも、エレベーターのボタンには7階がある。

押せないようになっている。プラスチックのカバーがしてあって、シールで「このボタンは無効です」と書かれている。

でも、カバーの下から、ボタンの形が少し盛り上がっているのが分かる。

誰かが押した形跡だ。

最初の夜

その夜、僕は2時頃に目が覚めた。

たまたまトイレに行きたかったのだ。

マンションのエレベーターに乗って1階へ降りようとした時、変な音がした。

ブッ、ブッ、ブッ。

エレベーターの警報音。

そして、7階の表示灯が点いた。

赤いLEDの「7」が、ゆっくりと点滅している。

エレベーターは動き出した。

4階を通過して、8階へ向かうはずが、7階の位置で止まる。

ガコン、という振動。

そして、静寂。

エレベーターの中は真っ暗。非常用の明かりもつかない。

ボタンパネルのLEDだけが、7階の表示灯を点灯させたまま。

僕はボタンを連打した。閉まり按钮も開き按钮も効かない。

30秒ほど待って、ようやく非常通報装置が繋がった。

「今、エレベーターに閉じ込められました。7階で止まっています」

「7階? 7階ってありませんよ」

管理人さんの声は眠そうだった。

「はい。でも、表示灯がついていて、エレベーターが本当に止まりました」

しばらくして、エレベーターが動き出した。

8階へ。

でも、その時、8階の表示灯が点く前に、一瞬だけ7階の表示灯がもう一度点いた。

点滅ではなく、完全に点灯して。

そして、消えた。

二日目

次の日、8階の廊下を歩いていたら、変なものを見つけた。

エレベーターの扉の横に、水滴が落ちた跡がある。

床に、水滴が広がっている。

でも、8階には水場がない。部屋からも水が漏れている様子はなかった。

水滴は、エレベーターの隙間から滴り落ちているように見える。

水滴の色は、透明ではなく、少し白濁していた。

3日目

その夜、2時頃。

またエレベーターに乗った。

1階から8階へ。

エレベーターが動き出した時、いつもより明らかに遅い。

まるで、何かを運んでいるような重たさ。

4階を通過して。

そして、7階の位置で止まる。

ガコン。

今回は、エレベーターの中が明るくなった。

非常用の明かりではなく、7階の表示灯が、異常なほど明るく点灯している。

その光の中で、エレベーターの扉の隙間から、何かが見えた。

7階の廊下。

廊下の奥に、人影が立っている。

背の高い人影。

手が、エレベーターの扉に伸びている。

指が、扉の隙間から入ろうとしている。

僕がボタンを押した。開く按钮。

扉が開いた。

廊下には誰もいない。

でも、床に、水滴が一本、エレベーターの中まで伸びていた。

水滴は、床から数センチ浮いているように見えた。

4日目

次の日、管理人さんに言った。

「昨日の夜、7階に人がいましたよ」

管理人さんは、少し顔色を変えて、それから言った。

「7階には、誰もいません」

「でも、確かに」

管理人さんは黙って、それから言った。

「このマンション、7階の部屋があったんです。15年前に撤去しました」

「15年前?」

「もともと、7階には部屋があった。でも、入居者が亡くなったんです。事故ではなく、自然死でした」

「部屋は?」

「撤去しました。階数を飛ばして、4階の次が8階にしました」

「でも、エレベーターのボタンは?」

「消せませんでした。配線が複雑で、ボタンだけを外すのが不可能だったんです」

「水滴は?」

管理人さんは黙って、それから言った。

「もう、エレベーターに乗らない方がいいですよ」

今も止まっている

今でも、毎晩2時半頃、エレベーターが7階で止まる。

表示灯が点いて。

そして、静寂。

僕はもうエレベーターに乗らない。

階段を使う。

でも、階段の踊り場で、変なものを見かけたことがある。

7階の表示灯が、点滅している。

階段には、7階の表示灯なんてない。

でも、点滅している。

そして、点滅のリズムが、何かに合わせているように見える。

ドカン、ドカン、ドカン。

地下から聞こえる、金属を叩く音。