深夜2時の24時間ジムで、走っているトレッドミル
2026年09月20日
実は、僕の話なんだけど。
去年の冬から、家の近くにある24時間ジムに通い始めた。 月額5,000円くらいで、マシンが揃っていて、シャワー室もある。 仕事が終わるのが遅い僕には、深夜に練習できるのが一番のメリットだった。
ジムは地下1階にある。入口は地上にあるけど、エレベーターで降りると、自動ドアが開いて、除湿された空気が顔に当たる。
ある日のこと。深夜2時頃、ジムに入ると、トレーナーの女性はすでに不在で、インターホンで「鍵は開けてあります」という音声メッセージが流れるだけ。自販機の隣にある鍵のボックスからカードキーを取って、入館するシステムだ。
フロアに入ると、薄暗い中、一台のトレッドミルだけが点灯していた。
僕のいた階にはトレッドミルが5台あるけど、そのうち4台は電源オフ。残りの一台が、走っていた。
表示画面には「速度4.5 / 時間02:17:33 / 距離9.8km」と出ている。
2時間以上も走っているってこと? でも、誰も乗っていない。
「誰かいる?」って声掛けしたら、インターホンの音声と同じ、機械的な女性の声がスピーカーから流れてきた。
「ご利用ありがとうございます」
何のことだかさっぱりわからないまま、僕は別のマシンでウェイトトレーニングを始めた。トレッドミルの方は、ずっと走り続けていた。
15分後、ふと目線をやると、トレッドミルの表示が変わっていた。
「時間02:33:11 / 距離10.5km」
走ってるんだ。誰も乗ってないのに、ベルトが回ってる。
僕は少し不気味だなって思ったけど、まあ、機械の故障かなって思った。次の日にスタッフに言おうってことで、そのまま放置した。
トレーニングを終えて、ジムを後にする時、ふとトレッドミルを見ると、表示がまた変わっていた。
「時間03:01:47 / 距離11.7km」
そして、ベルトの端に、小さな黒いものが乗っていた。
靴のサイズがわかるくらい、小さくて、丸い形。
僕はそれを指でつまんで取り上げた。
靴下だった。片方だけ。右足用。
誰も履いてなかった靴下が、トレッドミルの端に、ぽつんと乗っていた。
僕はそれをトレーナーの女性に渡そうと思ったけど、その時、インターホンからまた音声メッセージが流れた。
「鍵のボックスは、もう空です」
僕が振り返ると、入口の鍵のボックスには、カードキーが戻されていた。
でも、僕は今、そのカードキーを持っている。
胸のポケットに入ってる。確認した。
インターホンからは、また別のメッセージが流れてきた。
「ご利用ありがとうございます。お忘れ物を回収しました」
その夜から、僕はそのジムに通ってない。
でも昨日、朝のニュースで、地下の24時間ジムで、先月の夜に誰かが失踪したって報道があった。
失踪した人の名前も、僕も知っている人だった。
その人の靴下の片方が、トレッドミルの上に見つかったって。