深夜2時のインターホン
2026年08月25日
実話です。知人の体験談ですが、聞きながら背筋が凍るのを感じました。
彼女は東京都心のアパートに一人暮らしをしている。三十代前半、OL。特に変わった生活習慣もなく、毎晩十一時半頃にはベッドに入り、十二時頃には眠りにつく。ごく普通の生活だった。
九月のある火曜日。夜中二時四十七分のことだ。
彼女を襲ったのは、とつぜん鳴り出したインターホンの音だった。
「あ、誰だろう…」
スマホの画面を見て、彼女は愕然とした。二時四十七分。この時間に来訪者などありえない。
インターホンには小さなモニターがついている。赤いLEDの光が薄暗い廊下をにぶく照らす。彼女はそっとドアの近くまで歩き、モニターを覗き込んだ。
モニターには、廊下の映像が映っていた。
誰か立っている。
白い服を着た人物が、彼女のドアの真前に立っている。顔を直接映すカメラではないので、顔はぼやけている。ただ、姿勢が妙だった。前屈みで、頭を少し傾げている。まるで、ドアノブを覗き込んでいるように。
「誰かいますか?」
彼女はインターホンの通話ボタンを押した。声は震えていた。
返答はない。ただ、モニター越しに、静かな呼吸音が聞こえるだけだった。
「もしもし?何をしたいんですか?」
再びボタンを押す。それでも返事はない。
彼女はそっとドアのスリットから外を覗いた。
誰もいなかった。
廊下は空いている。蛍光灯の明かりが、剥げた壁紙を白く照らしている。彼女のドアの前には、何もなかった。
「……は?」
呆気にとられる。モニターを見れば、確かに人物が立っていた。しかし、スリットから外を見れば、誰もいない。
彼女はインターホンの電源を抜き、リビングの電気をすべてつけた。スマホで110番にかけようとしたその時、またインターホンが鳴った。
二時五十一分。
モニターには、また人物が立っていた。今度は、ドアにもう少し近づいている。手のひらがガラスに、かすかに触れているように見えた。
彼女は部屋を出て、隣のアパートの大家さんのところへ走った。戻ってきたのは三十分後だった。警察が来て、廊下の防犯カメラを確認した。
防犯カメラには、彼女のドアの前に誰も映っていなかった。
しかし、インターホンのモニターに記録された映像ファイルが、今でも彼女のスマホに残っている。誰かが立っている、その映像が。
彼女はその後、そのアパートには戻らなかった。
「一番怖かったのは、インターホンが鳴った時じゃなくて…」と彼女は言った。
「インターホンが鳴らなかった、次の日の朝のことだから」
朝、インターホンのモニターを確認すると、録画ファイルが一つ増えっていた。
それは、昨夜の二時四十七分の映像だった。
しかし、その映像には、彼女の背後に、誰かが立っていた。