実録: 深夜のコインランドリーで、隣の洗濯機だけが回り続けた話
2026年08月25日
知人が一人暮らしを始めて二週間目のある夜、部屋の洗濯機が壊れたという。
「ドラムが回らないんだよね。修理に出すのも面倒だから、近くのコインランドリーに行ってくる」
知人の住むアパートの近くには二十四時間営業のコインランドリーがあった。夜中の十一時頃、洗濯物を持ってwalk-inする。店内は蛍光灯の白っぽい光に照らされ、数台の洗濯機が静かに回っている。客は知人一人。
「まあ、よくあるパターンだよね」と知人は笑って、空いている洗濯機に洗濯物を入れた。
三〇分コースを投入し、カウンターに座ってスマホを見ている。店内のBGMが流れている。静か――と言いたいところだが、知人はふと気づいた。
隣りの洗濯機から、洗濯物が擦れる音が聞こえているのだ。
知人は自分の洗濯機が三〇分コースだと確認した。投入したばかりで、まだ始まったばかりだ。なのに、隣りの洗濯機からの音は、まるで一〇分以上回っているような、激しさとリズミカルさがあった。
「あ、隣の機械、動いてるんだ」
知人は隣りの洗濯機 glanced。透明のドアの向こうには、何かがぐるぐると回っている。色は白っぽい。洗濯物に見える。
「そういえば、誰も投入してるの見たことないな」
店内には他に客がいない。入口のドアbellも鳴っていない。なのに隣りの洗濯機は回り続け、洗濯物が擦れる音だけが、規則正しく、しかしどこか不自然なテンポで鳴り続けている。
知人は自分の洗濯機のタイマーを確認した。まだ一〇分も経っていない。
隣りの洗濯機の音はずっと続いた。
二〇分が過ぎた頃、知人の洗濯物のコースが終わり、ブザーが鳴った。知人はさっさと洗濯物を取り出し、隣りの洗濯機にも意識が行かなくなった。
しかし、カウンターに戻って決済をしようとした時、知人はまたその音を聞いた。
まだ回っている。
知人の洗濯物が終わったはずなのに、隣りの洗濯機からは洗濯物が擦れる音が聞こえ続ける。コースは三〇分。投入してからまだ三〇分も経っていない。なのに、音がまるで終盤の脱水のような、激しい振動音に変わっていた。
「え、もう終わり?」
知人は隣りの洗濯機のドアを開けようとした。しかし、その瞬間、店内の蛍光灯がチカチカと点滅し、BGMが一瞬止まった。
そして、隣りの洗濯機の中の音が、完全に止まった。
静寂。
知人は息を飲んで、隣りの洗濯機のドアを開けた。
中には、何も入っていなかった。
ドラムは空だ。濡れた洗濯物も、少しの水滴さえもない。完全に空っぽのドラムが、静かに止まっている。
「……え」
知人は背筋が凍るのを感じた。先ほどまで、洗濯物がぐるぐると回り、擦れる音が聞こえていたはずだ。自分もその音を三〇分以上聞き続けていた。
でも、中に何も入っていない。
知人は店内を見渡した。他の洗濯機もすべて停止している。誰もいない。入口のドアbellも鳴っていない。
「誰かが遠くから操作してるのか」
知人はそう自分に言い聞かせ、自分の洗濯物を持って店を出た。
しかし、その夜、知人は一つ気づいていなかったことがある。
知人が隣りの洗濯機を開けた時、ドラムの内側には確かに何も入っていなかった。
でも、ドアのガラス面には、水滴がついていたのだ。
外側から内側についた、丸い水滴が、何十個と付いていた。まるで、誰かが中から外側に手を押し付けていたような、楕円形の水滴の軌跡が、ガラス面に残っていた。
知人はその水滴のことを、家についてからようやく思い出した。
そして、その水滴が、内側についていたのだということに、さらに数時間してから気づいた。
外側から開けたドアの向こうに、水滴がついていた。
水滴は、内側についていた。