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知人が一人暮らしを始めて二週間目のある夜、部屋の洗濯機が壊れたという。

「ドラムが回らないんだよね。修理に出すのも面倒だから、近くのコインランドリーに行ってくる」

知人の住むアパートの近くには二十四時間営業のコインランドリーがあった。夜中の十一時頃、洗濯物を持ってwalk-inする。店内は蛍光灯の白っぽい光に照らされ、数台の洗濯機が静かに回っている。客は知人一人。

「まあ、よくあるパターンだよね」と知人は笑って、空いている洗濯機に洗濯物を入れた。

三〇分コースを投入し、カウンターに座ってスマホを見ている。店内のBGMが流れている。静か――と言いたいところだが、知人はふと気づいた。

隣りの洗濯機から、洗濯物が擦れる音が聞こえているのだ。

知人は自分の洗濯機が三〇分コースだと確認した。投入したばかりで、まだ始まったばかりだ。なのに、隣りの洗濯機からの音は、まるで一〇分以上回っているような、激しさとリズミカルさがあった。

「あ、隣の機械、動いてるんだ」

知人は隣りの洗濯機 glanced。透明のドアの向こうには、何かがぐるぐると回っている。色は白っぽい。洗濯物に見える。

「そういえば、誰も投入してるの見たことないな」

店内には他に客がいない。入口のドアbellも鳴っていない。なのに隣りの洗濯機は回り続け、洗濯物が擦れる音だけが、規則正しく、しかしどこか不自然なテンポで鳴り続けている。

知人は自分の洗濯機のタイマーを確認した。まだ一〇分も経っていない。

隣りの洗濯機の音はずっと続いた。

二〇分が過ぎた頃、知人の洗濯物のコースが終わり、ブザーが鳴った。知人はさっさと洗濯物を取り出し、隣りの洗濯機にも意識が行かなくなった。

しかし、カウンターに戻って決済をしようとした時、知人はまたその音を聞いた。

まだ回っている。

知人の洗濯物が終わったはずなのに、隣りの洗濯機からは洗濯物が擦れる音が聞こえ続ける。コースは三〇分。投入してからまだ三〇分も経っていない。なのに、音がまるで終盤の脱水のような、激しい振動音に変わっていた。

「え、もう終わり?」

知人は隣りの洗濯機のドアを開けようとした。しかし、その瞬間、店内の蛍光灯がチカチカと点滅し、BGMが一瞬止まった。

そして、隣りの洗濯機の中の音が、完全に止まった。

静寂。

知人は息を飲んで、隣りの洗濯機のドアを開けた。

中には、何も入っていなかった。

ドラムは空だ。濡れた洗濯物も、少しの水滴さえもない。完全に空っぽのドラムが、静かに止まっている。

「……え」

知人は背筋が凍るのを感じた。先ほどまで、洗濯物がぐるぐると回り、擦れる音が聞こえていたはずだ。自分もその音を三〇分以上聞き続けていた。

でも、中に何も入っていない。

知人は店内を見渡した。他の洗濯機もすべて停止している。誰もいない。入口のドアbellも鳴っていない。

「誰かが遠くから操作してるのか」

知人はそう自分に言い聞かせ、自分の洗濯物を持って店を出た。

しかし、その夜、知人は一つ気づいていなかったことがある。

知人が隣りの洗濯機を開けた時、ドラムの内側には確かに何も入っていなかった。

でも、ドアのガラス面には、水滴がついていたのだ。

外側から内側についた、丸い水滴が、何十個と付いていた。まるで、誰かが中から外側に手を押し付けていたような、楕円形の水滴の軌跡が、ガラス面に残っていた。

知人はその水滴のことを、家についてからようやく思い出した。

そして、その水滴が、内側についていたのだということに、さらに数時間してから気づいた。

外側から開けたドアの向こうに、水滴がついていた。

水滴は、内側についていた。