地下駐車場の静寂と、突然鳴り響くアラーム

実録の話です。知人の話だけど、その人物が現在も「あの日以来、夜中の駐車場には絶対行かない」と言っている。

知人は三十二歳、東京・世田谷のマンションに住む会社員。残業続きの夜、仕事帰りに地下駐車場で車に乗ろうとした。

地下二階の駐車場は真夜中なので、ほぼ無人。蛍光灯が所々に点在して、一部が点滅している。足音が妙に大きく響く。

知人は自分の車——トヨタのアクア——に近づき、キーレスエントリーのボタンを押した。

カチッ。

ドアロックが解ける音。その瞬間だった。

ブッ!!ブッ!!ブッ!!

車のアラームが鳴り始めた。

「えっ?」と知人は思った。鍵を持っていないのに、なぜアラームが?

キーレスエントリーのボタンを押したわけでもない。持ってるキーケースに触れたわけでもない。

アラームは止まらない。三秒ごとに、鋭い音声が地下空間に響く。

知人はその時、ふと気づいた。

自分の車のサイドミラーが、自分の方を向いているということに。

通常、サイドミラーは後方を見ているはずだ。だがその時、左右のミラーの反射面が、知人自身を映していた。

知人は後退った。アラームは止まらない。

知人が後退るたびに、ミラーの反射も少しずつ——知人の方を向いていく。

知人は走った。エレベーターホールまで走って、エレベーターを呼んだ。

エレベーターが到着し、中に入った時、知人はふと地下駐車場の方向を見据えた。

ミラーの反射が、エレベーターホールまで見えているわけがない。

だが、知人は確信した。

自分の車は、もう停まっていないということに。

次の日、知人は昼間に駐車場に行った。車は普通に停まっていた。アラームも鳴っていない。

だが、運転席のサイドミラーを覗き込むと、知人は冷や汗が出た。

ミラーの表面に、指紋が一つ、付いていた。

運転席の窓から、外側——つまり、外からミラーに指紋を付けた痕跡。

知人はその日以来、車に乗るたびに、サイドミラーを必ず確認するようになったそうです。