階段

僕が勤めているのは、都内某所のオフィスビル、7階建ての古いビルの4階から6階を借りている。エレベーターは1つしかなく、ピーク時は待つこと5分くらいざらにある。だから普段は階段を使うことが多い。

特に僕の場合は、4階の受付から6階の自社オフィスまで、4階の廊下を抜けて奥にある非常階段を使うのがルーチンだった。朝の9時前、夕方の7時過ぎ、そして終電を逃した深夜の帰路。その非常階段の段数は、ずっと12段だった。

4階から5階までが6段。5階のフロアリングをまたいで、6階までがもう6段。合計12段。これくらいなら数えずとも足で覚えているレベルの話で、朝の眠い眼のままでも、手すりをつたように降りれば着地できる。

ある日のことだ。

それはちょうど、プロジェクトの納品前日。夜中の2時を回していた。僕以外は全員帰っていて、オフィスには僕一人。PCの画面と、コーヒーメーカーの沸騰音だけが響く静かな空間だった。

僕は6階の自席で最後の確認を終え、非常階段を降りて4階の受付へ向かうことにした。いつもの通り、手すりをつかみ、一段、二段、三段――。

12段目。

着地しようとした足が、空中を浮いたまま止まる。

「っ……」

足元を見れば、まだ一段あった。

13段目。

4階から5階までが6段。5階のフロアをまたいで、6階までが7段。合計13段。

間違いなく12段のはずだ。毎日、少なくとも週に3日、この階段を使い続けている。段数くらい覚えてる。

僕は立ち止まり、再び上を見上げた。手すりの間から6階の床が見える。そして、その間にある段数。数えてみた。

1、2、3、4、5、6、7。

7段。

「嘘だろ」

そう呟いて、僕はもう一度降りた。12段目まで来て、また空中に足が浮く。13段目がそこにある。

2回目も13段。3回目の朝、会社に来たら12段に戻っていた。

でもその後も、不定期で現れる。月曜日の朝、13段。金曜日の夜、13段。毎週のように、僕だけが気づくタイミングで。

ある日、先輩の男性に話したら、笑って「お前、最近疲れてないか?階段なんてそんなもんさ」と言われた。

でも、本当かどうかは本人にしかわからない。

僕が知っているのは、この階段には、本来存在しないはずの一段が、たまに現れるということだけだ。

そして、その段を踏むと、なぜか背中にぞっとする冷たい空気が走る。

まだ踏んだことがない。


もしあなたが同じビルで同じ非常階段を使っているなら、一度数えてみてほしい。

12段か、13段か。

答えは、その日によって変わるかもしれない。