実家の片付けを手伝った知人が、押入れの奥で奇妙なものを見つけた話がある。

知人の実家は三重県の田舎。祖母が亡くなり、遺品整理で実家に数日泊まることになった。二階の廊下を挟んだ両側に押入れがあり、普段はほとんど開けられないほど物が詰まっている。

「開けたらまた閉めるから」

知人はそう言って、右の押入れの襖を開けた。

中からは着物の袋や布団、古い季節の衣装が山のように押し込まれている。埃が立ち込めていて、目を開けていられないほどだ。知人は懐中電灯を点け、適当に物をよけながら奥に進んでいく。

その時だった。

押入れの一番奥、壁際で、何か光っているのに気づいた。

知人は近づいて、埃を払ってみると——プラスチックのコップが一つ、置かれていた。

コーヒーカップのような形だが、取っ手がない。中身はからっぽで、底には茶色い染みができている。

「これ、なんでここにあるんだろ」

知人はコップを懐中電灯にかざして見てみた。底の方に、小さな穴が開いているのがわかった。

そしてその時、知人は不気味なことに気づいた。

押入れの床に、足跡がついているのだ。

埃の層の上には、裸足のような足の形が、三歩ほどついていた。奥から手前へ向かうように。

「ああ、これは」

知人は背筋が凍るのを感じた。押入れの奥に、誰かが立っていた痕跡が、そのまま残っている。

でも、押入れに入った時、足音は一つも聞こえていなかった。襖を開けた瞬間、何もいなかったはずだ。

知人はその場から逃げ出すように押入れを閉め、次の日までに他の部屋の押入れもすべて確認した。どの押入れにも、同じような痕跡があった。

コップ。足跡。そして、もう一つ——

中央の押入れの奥には、小さな布団が敷いてあった。

畳の上に、直接布団が。枕も、毛布も。まるで誰かがそこに寝泊まりしていたように。

知人はその夜、実家を飛び出した。

「押入れから、息をする音が聞こえたんだ」

知人がそう言った時、その声は震えていた。


実家の押入れは、たいてい物でいっぱいで開けられない。

でも、もし開けられたら——

その奥に、誰かの生活痕跡が残っていたら。