実家の押入れの鍵が、毎晩勝手に回る
2026年08月29日
実家に帰った三日目、私は奇妙な音に気づいた。
深夜2時頃、廊下で「カチッ、カチッ」と金属が回る音。押入れの鍵だ。
「誰か起きてるの?」と声をかけると、父が「あ、ごめん。トイレ起きた」とぼんやり答えた。父は左利きで、押入れは右側の部屋にある。寝室は廊下の反対側。
翌日も同じ時間。「カチッ、カチッ」。
私は押入れの鍵を触った。確かに回った。鍵穴はまだ温かかった。
「父さん、押入れの鍵回ったよ」 「え?俺やってないよ」
押入れを開けると、中の物が少し動いていた。祖母が亡くなった後、遺品をまとめて入れたままの段ボール。その中の一つが、開いていた。
「誰も入ってないよ」と母。
四日目、私は音で起きたのではなく、暗闇で「何か見ている」感覚で目覚めた。押入れの隙間から、薄い光が漏れている。
押入れの扉が、わずかに開いていた。
鍵は外してある。外から開けられる錠前じゃない。内側からかけるタイプだ。
中を覗き込んだ時、段ボールの山に何か動くのが見えた。影が、ゆっくりと右にずれた。
「……誰かいる?」
返事はない。ただ、段ボールの隙間から、古い写真が一枚、ゆっくりと外へ滑り落ちてきた。
写真には、実家の廊下が写っていた。撮ったのは私だ。寝顔が写っていた。
撮った記憶はない。
五日目、私は実家を後にした。押入れの鍵は、かけ直して来た。
かけ直した、はずだ。
鍵穴が、内側から少し歪んでいる。金属が、内側から押し上げられたような跡が、残っていた。
実家に帰るたび、同じ音がする。毎晩、2時。
「カチッ、カチッ」
鍵が、回っている。