実家に帰った三日目、私は奇妙な音に気づいた。

深夜2時頃、廊下で「カチッ、カチッ」と金属が回る音。押入れの鍵だ。

「誰か起きてるの?」と声をかけると、父が「あ、ごめん。トイレ起きた」とぼんやり答えた。父は左利きで、押入れは右側の部屋にある。寝室は廊下の反対側。

翌日も同じ時間。「カチッ、カチッ」。

私は押入れの鍵を触った。確かに回った。鍵穴はまだ温かかった。

「父さん、押入れの鍵回ったよ」 「え?俺やってないよ」

押入れを開けると、中の物が少し動いていた。祖母が亡くなった後、遺品をまとめて入れたままの段ボール。その中の一つが、開いていた。

「誰も入ってないよ」と母。

四日目、私は音で起きたのではなく、暗闇で「何か見ている」感覚で目覚めた。押入れの隙間から、薄い光が漏れている。

押入れの扉が、わずかに開いていた。

鍵は外してある。外から開けられる錠前じゃない。内側からかけるタイプだ。

中を覗き込んだ時、段ボールの山に何か動くのが見えた。影が、ゆっくりと右にずれた。

「……誰かいる?」

返事はない。ただ、段ボールの隙間から、古い写真が一枚、ゆっくりと外へ滑り落ちてきた。

写真には、実家の廊下が写っていた。撮ったのは私だ。寝顔が写っていた。

撮った記憶はない。

五日目、私は実家を後にした。押入れの鍵は、かけ直して来た。

かけ直した、はずだ。

鍵穴が、内側から少し歪んでいる。金属が、内側から押し上げられたような跡が、残っていた。

実家に帰るたび、同じ音がする。毎晩、2時。

「カチッ、カチッ」

鍵が、回っている。