押し入れの襖の隙間から見える3本の指の痕

実家の押し入れが、毎日朝6時に「ゴソゴソ」と音を立てるようになった。

僕が実家に帰省したのが去年の秋のことだった。祖父の仏壇の掃除を手伝うため、約3ヶ月ぶりの帰郷だった。実家は郊外の住宅街にあり、2階に広い押し入れが一つある古い家だ。

「あの押し入れ、10年以上開けてないよ」 母がそう言った時、僕は特に気に留めなかった。

しかし、帰省3日目のある朝、僕は目覚めた。

朝6時ちょうど。

「ゴソ……ゴソゴソ……」

押し入れ側壁の向こうから、何か重い物が擦れるような音が聞こえた。夜中に一度もそんな音はしない。朝6時だけ、毎日同じ時間に。

「母さん、押し入れから音がしてるんだけど」 「あ、それか」母は平然とした顔で答えた。「大丈夫、お父さんが毎日朝6時に整理してるの」

祖父が亡くなってから、父が毎日朝6時に押し入れの整理をしているのか。そう思って僕はまた寝ついた。

しかし、4日目。僕はわざと夜更かしして、6時に起きないようにした。スマホのアラームもオフ。

6時03分。

僕は目覚めていた。浅い眠りだった。そしてまた、音がした。

「ゴソ……ゴソゴソ……」

母に電話した。

「今、押し入れから音がするんだけど、父さんは起きてる?」 「え? お父さん、今朝は5時に出勤しちゃったよ」 「じゃあ、だれが……」

その時、音は止んだ。

翌日、僕は朝5時に起きた。押し入れの前に座って、音を待った。

5時30分。5時45分。5時55分。

何も起きない。

6時00分。

「ゴソ……ゴソゴソ……」

僕は押し入れの襖を開けた。

中は暗くて埃っぽい。段ボールが積んであって、祖父の形見が入っている。特におかしいところはない。

しかし、襖を開けた瞬間、埃の臭いがした。

押し入れの奥の、一番奥の壁際。埃が、まだ揺れていた。

誰かが、襖を開ける直前に、中にいた。

僕はそのまま実家を後にした。その夜、母からLINEが来た。

「ねえ、昨日押し入れ開けた? 奥の壁に、指の跡があったの。3本、揃って。大人の人差し指と中指と薬指の跡」

僕は返信しなかった。

今も実家の押し入れからは、毎日朝6時に音が聞こえる。父も母も、もう見ないようにしている。

僕がその押し入れを開けた時、埃が揺れた。

それは、誰かが中から外を見た痕だった。