実家の押し入れから、毎日朝6時に鳴る物音
2026年08月24日
実家の押し入れが、毎日朝6時に「ゴソゴソ」と音を立てるようになった。
僕が実家に帰省したのが去年の秋のことだった。祖父の仏壇の掃除を手伝うため、約3ヶ月ぶりの帰郷だった。実家は郊外の住宅街にあり、2階に広い押し入れが一つある古い家だ。
「あの押し入れ、10年以上開けてないよ」 母がそう言った時、僕は特に気に留めなかった。
しかし、帰省3日目のある朝、僕は目覚めた。
朝6時ちょうど。
「ゴソ……ゴソゴソ……」
押し入れ側壁の向こうから、何か重い物が擦れるような音が聞こえた。夜中に一度もそんな音はしない。朝6時だけ、毎日同じ時間に。
「母さん、押し入れから音がしてるんだけど」 「あ、それか」母は平然とした顔で答えた。「大丈夫、お父さんが毎日朝6時に整理してるの」
祖父が亡くなってから、父が毎日朝6時に押し入れの整理をしているのか。そう思って僕はまた寝ついた。
しかし、4日目。僕はわざと夜更かしして、6時に起きないようにした。スマホのアラームもオフ。
6時03分。
僕は目覚めていた。浅い眠りだった。そしてまた、音がした。
「ゴソ……ゴソゴソ……」
母に電話した。
「今、押し入れから音がするんだけど、父さんは起きてる?」 「え? お父さん、今朝は5時に出勤しちゃったよ」 「じゃあ、だれが……」
その時、音は止んだ。
翌日、僕は朝5時に起きた。押し入れの前に座って、音を待った。
5時30分。5時45分。5時55分。
何も起きない。
6時00分。
「ゴソ……ゴソゴソ……」
僕は押し入れの襖を開けた。
中は暗くて埃っぽい。段ボールが積んであって、祖父の形見が入っている。特におかしいところはない。
しかし、襖を開けた瞬間、埃の臭いがした。
押し入れの奥の、一番奥の壁際。埃が、まだ揺れていた。
誰かが、襖を開ける直前に、中にいた。
僕はそのまま実家を後にした。その夜、母からLINEが来た。
「ねえ、昨日押し入れ開けた? 奥の壁に、指の跡があったの。3本、揃って。大人の人差し指と中指と薬指の跡」
僕は返信しなかった。
今も実家の押し入れからは、毎日朝6時に音が聞こえる。父も母も、もう見ないようにしている。
僕がその押し入れを開けた時、埃が揺れた。
それは、誰かが中から外を見た痕だった。