実家が実家にある理由で、年に数回しか帰らない。

去年の年末、祖母の整理を手伝うため帰省した。二階の廊下沿いにある押し入れが開け放ってあり、祖母曰く「もう開けっ放しでいいわ」だったらしい。

押し入れには段ボール箱が二十箱ほど積んであって、その上から埃が白い布のようにかかっていた。

「これ、全部おばあちゃんの服?」

「ううん、おじいちゃんの。戦争の頃の服もあるし、古い写真も入ってる」

祖母がそう言うと、そっと廊下へ戻っていった。


その夜、二階でスマホをいじっていたら、何かに気づいた。

押し入れのドアが、閉まっているのだ。

開け放って記憶している。確かめたわけではないが、祖母が「開けっ放し」と言っていたので、多分そうだろう。

でも今、木製の引き戸がぴったりと閉まっていた。

「祖母が閉めたのかな」

そう思って、また開けて二階へ戻った。


翌朝、目が覚めるとまた閉まっていた。

今度は少し気になる。祖母は朝早くから畑に出ている。一人暮らしではないが、この家は広い。二階に上がってくることはあるが、押し入れのあたりまで来るのか。

「たまたま風で閉まったんだろ」

そう自分に言い聞かせて、朝食へ行った。


三日目、押し入れのドアが閉まっていたのは、もう慣れっこになっていた。

でも、何か違うことに気づいた。

押し入れの段ボール箱の並べ方が、昨日と違っていたのだ。

一番手前にあった「写真」の箱が、二番目になっていた。左から右へ、箱がずれていた。

「おじいちゃん、写真が入ってるの」

私はそう呟いた。

でも、その瞬間、何かが胸の奥で冷たくなった。

祖母は畑に出ている。私が帰っているのも、昨夜からまだ十二時間しか経っていない。

誰が箱を動かしたのか。


その夜、私は押し入れのドアを開けたままにした。

スマホのカメラを三脚にセットし、押し入れのドアに向かって録画を開始した。

二階の部屋で、画面上の押し入れを凝視した。

深夜二時を回った頃、画面の中で何かが動いた。

押し入れの奥の方、埃の山がゆっくりと、自分から移動していた。

人間が動いたのではない。埃が、まるで何かの形に従うように、波打つように流れていた。

そして、埃が流れた先にあった段ボール箱が、ゆっくりと引き出されていった。

箱のフタが開く。

中から、黒い影のようなものが、ゆっくりと顔を出した。

それは、人間の手ではなかった。

指が三本、関節が逆向きに曲がっている。

その手が、カメラの方を向いた。

スマホの画面が、突然真っ暗になった。


次の日、私は押し入れを開けた。

箱は元通りだった。埃も、元に戻っていた。

でも、一番手前にあった写真の箱のフタが、わずかに開いていた。

その中から、一枚の写真が落ちている。

写真には、私の実家の二階の部屋が写っていた。

撮影時刻は、昨夜の深夜三時。

写真の中で、私の背がベッドの上で動いていた。

裏面には、黒いインクでこう書かれていた。

「また、観てる」


私はその夜、実家を離れた。

もう二度と戻らないことにした。

でも、今、この原稿を書いている今も、私の部屋にあるスマホのカメラアプリが、勝手に開いている。

画面の中、私の背後に、何かが立っている。