実家の固定電話が、夜中3時に勝手に鳴り出した。

実家というのは、地方の田舎にある二世帯住宅のことだ。私は都会で一人暮らしをしているが、先月末に祖母の葬儀があり、帰省していた。帰省最終日の夜、皆が寝静まった頃のことだった。

「りんっ、りんっ、りんっ――」

音は上階から聞こえてきた。実家には今でも古いタイプの固定電話がある。祖母が使っていたものだ。コードレス電話ではなく、受話器が本体に繋がった、あの昔ながらの電話だ。

「お父さん、お母さん、電話が鳴ってるよ」

私は布団の中でそう叫んだ。何も返事がない。親は別室で寝ているので、声が届いていないのかもしれない。もう一度言おうとしたその時、鳴り音が止んだ。

静寂。

「……誰かと思ったら、また鳴った」

「りんっ、りんっ、りんっ――」

同じ間隔で、同じ音で。

私は仕方なく上階に上がり、受話器を取った。

「もしもし」

向こう側から、かすかな呼吸音が聞こえた。

「……誰ですか」

また静寂。

そして、かすかに、自分の声が聞こえた。

「もしもし」

それは、私が今さっき言った「もしもし」と全く同じ声だった。同じ間隔で、同じ高さで、同じ強さで。

私は受話器を握りしめたまま、何も言えなかった。

「……もしもし、もしもし、もしもし」

向こう側から、私の声が繰り返された。まるで、私が言った言葉を録音して、再生しているようだった。

「誰だ、誰だ!」

私は叫んだ。すると、向こう側からも同じ声が返ってきた。

「誰だ、誰だ、誰だ!」

その瞬間、受話器から、かすかに笑い声が聞こえた。

とても小さくて、でもとても明確に。

私は受話器を放り投げて、部屋から逃げ出した。次の日、親に話をすると、親は顔色を変えて言った。

「あの電話、祖母が亡くなってから一度も使っていないわ。コードも抜いてあるはずなのに」

私はその場から走り去った。帰省を諦めて、都会に戻った。

その夜から、私の携帯電話が夜中3時に勝手に鳴り出すようになった。

出ても、向こう側からは自分の声が聞こえるだけだ。

「もしもし」