地下駐車場のエレベーターのシルエット

知人の話だ。彼は東京都心で働く30歳代の男性。毎晩、会社から徒歩五分のマンションに一人暮ししている。

地下二階に自家用車を停めている。地下駐車場までのエレベーターは、夜になるとやたらと寒くなる。それは一年くらい前からだった。

「最初はエアコンの風だと思った」

彼はそう語っていた。ある深夜十一時頃、会社から帰ってきてエレベーターを呼んだ。三階から地下二階まで、一人で乗るのに十五秒ほど待つ。普段なら五秒で来るのに。

エレベーターが来た。中は暗く、壁のモニターが青く光っているだけだった。彼が中に入ると、ドアが閉まる。

「ふと、床に目をやると、B2の表示が点いてるのに気づいた」

彼は三階住み。地下駐車場に行くにはB1で降りて、階段を下りればよい。B2のボタンを押した覚えはない。

「おかしいな」

彼がB1のボタンを押そうとすると、エレベーターが止まった。ドアが開く。

向こう側には、駐車場ではなく、コンクリートの壁が広がっていた。B2には駐車場などない。

「はっ?」

彼がボタンを連打する。B1もB2も効かない。その時、エレベーターが動き出した。

表示が「B1」から「B2」に変わった。

ドアが開く。またコンクリートの壁。

「二度目の時、彼はエレベーターの中にいた。でも三度目の時、彼は外にいた」

彼はそう説明した。三度目の時、ドアが開いた瞬間、何かが彼の足元をすり抜けた。冷たい風ではなく、何かの気配だ。

彼は飛び出して、階段を駆け上がった。マンションの自室まで、息も絶え絶えだった。

翌朝、駐車場に行ってみると、エレベーターの床に、水滴が一つ落ちていた。地下には水道もない。水滴は、まるで誰かが靴から染み出してきたように、床に広がっていた。

それ以来、彼はエレベーターを使わない。階段を下りて、駐車場まで歩く。

昨日も、夜中にエレベーターが「ピン」と鳴った。誰も押していないのに。

表示は「B2」。