地下駐車場のエレベーターで、B2のボタンが勝手に点灯した
2026年08月15日
知人の話だ。彼は東京都心で働く30歳代の男性。毎晩、会社から徒歩五分のマンションに一人暮ししている。
地下二階に自家用車を停めている。地下駐車場までのエレベーターは、夜になるとやたらと寒くなる。それは一年くらい前からだった。
「最初はエアコンの風だと思った」
彼はそう語っていた。ある深夜十一時頃、会社から帰ってきてエレベーターを呼んだ。三階から地下二階まで、一人で乗るのに十五秒ほど待つ。普段なら五秒で来るのに。
エレベーターが来た。中は暗く、壁のモニターが青く光っているだけだった。彼が中に入ると、ドアが閉まる。
「ふと、床に目をやると、B2の表示が点いてるのに気づいた」
彼は三階住み。地下駐車場に行くにはB1で降りて、階段を下りればよい。B2のボタンを押した覚えはない。
「おかしいな」
彼がB1のボタンを押そうとすると、エレベーターが止まった。ドアが開く。
向こう側には、駐車場ではなく、コンクリートの壁が広がっていた。B2には駐車場などない。
「はっ?」
彼がボタンを連打する。B1もB2も効かない。その時、エレベーターが動き出した。
表示が「B1」から「B2」に変わった。
ドアが開く。またコンクリートの壁。
「二度目の時、彼はエレベーターの中にいた。でも三度目の時、彼は外にいた」
彼はそう説明した。三度目の時、ドアが開いた瞬間、何かが彼の足元をすり抜けた。冷たい風ではなく、何かの気配だ。
彼は飛び出して、階段を駆け上がった。マンションの自室まで、息も絶え絶えだった。
翌朝、駐車場に行ってみると、エレベーターの床に、水滴が一つ落ちていた。地下には水道もない。水滴は、まるで誰かが靴から染み出してきたように、床に広がっていた。
それ以来、彼はエレベーターを使わない。階段を下りて、駐車場まで歩く。
昨日も、夜中にエレベーターが「ピン」と鳴った。誰も押していないのに。
表示は「B2」。