証明写真機に写っていた後ろの影
2026年11月28日
社会人2年目の冬、私は転職活動の一環で証明写真を撮るために、都内某所の駅構内まで足を運んだ。
改札を出てすぐの通路の隅に、新しい証明写真機が設置されていた。以前はなかった気がするのだが、おそらく最近新しく導入されたものだろう。タッチパネル式の画面には「1分で完成」「4枚1,200円」といった明るい案内が流れている。
私は特に違和感を感じずに、券売機のように1,200円を投入して「証明写真」のボタンを押した。すると、機械が「撮影ブースへお進みください」と案内する。通路の壁に、縦長の小さな個室が作られていたのだ。入口にはカーテンがあり、中はちょうど写真館のブースくらいの広さがある。
中に入ってカーテンを閉めると、静かになった。壁一面にミラーが貼ってあり、自分の姿が何重にも反射している。正面にカメラ、その下にモニター。モニターには自分の姿がリアルタイムで映し出されている。
「まあ、まあ」と、少し大きめの顔になってモニターを見つめる。機械が「姿勢を正してください」と音声で案内する。背中を伸ばし、顎を少し引く。モニターの中で、自分の姿が小さく収まった。
「撮影を始めます」
「ピッ」という電子音とともに、フラッシュが光った。3回ほど撮影が繰り返され、最後に「完成です」という音と共に、券出口から写真が出力されるのを待つ。
その間、モニターには先ほど撮影した写真のプレビューが流れていた。1枚目、2枚目、3枚目――と、順番に自分の顔写真が映る。
そして4枚目。
私はモニターを見て、冷たい背筋を感じるのを防ぐことができなかった。
4枚目の写真には、私の後ろに、誰かが立っていた。
カーテンは閉めていた。自分一人だけで入った。入場記録も機械が管理しているはずだ。なのに、写真のフレームの端に、黒い影のようなものが写っている。人の形をしている。顔は輪郭がぼやけているが、明らかに人間のシルエットだ。
「ありえない」と、私はカーテンを開けて外を見た。通路には誰もいない。証明写真機の横を通り過ぎる人たちは、皆スマートフォンを握りしめ、私には気づいていない。
再びブースに入り直して、プレビューを見直した。1枚目から3枚目には誰も写っていない。4枚目だけに、その影がある。
「機械の誤作動だろう」と、自分自身に言い聞かせる。カメラのセンサーが異常をきたして、ノイズのようなものを人の形に認識してしまったのかもしれない。
そう思いたかった。
その夜、私は出力された写真を持ち帰って、パソコンの画面で拡大表示した。すると、さらに恐ろしいことに気づいた。
影の人物が、こちら――写真の中の世界を向いているのだ。
そして、その手の位置が、私の肩に近づいているように見えた。
私はその証明写真をゴミ箱に捨てた。そして、その駅を通るのを避けるようになった。
でも、時々ふと、今使っている証明写真が、もしかするとどこかの枚数で、同じことが起きているのではないかと心配になることがある。
追記: その後、知人にこの話をしたところ、「証明写真機って、実は撮影中に360度回転するカメラがついてるんだって。だから鏡の向こうに誰かいる可能性、ゼロじゃないよ」と言われた。その言葉以来、私は証明写真機を使うたびに、ブースの隅にある赤い点滅するLEDを凝視してしまうようになった。