プリクラに写っていた余分な人
2026年08月16日
プリクラに写っていた余分な人
先週、友人のAと渋谷のショッピングモールに行った。目的は新しいカフェ巡りだったが、ついでに100円プリクラで一枚撮ろうということになった。
プリクラコーナーはモールの奥、エレベーターの隣にあった。平日の夕方ということもあって人はまばらで、機械もきれいにメンテナンスされた新しいタイプだった。
「じゃあ三枚目、デコなしでリアルでいこうか」
Aがそう言って画面の「デコレーションなし」ボタンを押した。モニターに映った私たちの姿は、いつも通りの明るさだった。カウントダウンの「3、2、1——」
シャッター音が鳴り、プリントが始まる。
「ねえ、これ見て。三枚目、ちょっと暗いけどいい?」
プリントされた写真を手に取って見ると、確かに露出が少し足りていない。背景は暗く、私たちの顔はかろうじて見える程度だ。
「まあいいや。でも二枚目の方が顔明るかったね」
私たちは二枚目の写真を見比べながら、次のカフェに向かった。
その夜、帰宅してスマホでプリクラデータをバックアップしようとした。プリクラアプリを開き、先ほど撮った写真のデジタルデータを確認すると——
私の背中に、手が乗っていた。
画面の右端、Aの後ろに立っているのがいた。長い黒髪、白い服。顔は写っていない。ただ、私の肩に手を添えるようにして、写真の中に立っている。
「……?」
モニターで見たときは誰もいなかった。プリント写真にもいなかった。しかしデジタルデータには、誰かが写っている。
Aに写真を送ってみると、即返事が来た。
「これ、誰?後ろに人いるよ」
「いや、プリクラ撮ったときは誰もいなかったよ。モニターにもプリントにもいなかった」
「でも写真には写ってる。これ、あなたの後ろの人の服、白くない?プリクラの背景、白くなかったっけ?」
その通りだった。プリクラの背景は薄いブルーだった。しかしデジタル写真の背景は、明らかに白くなっている。そしてその白さの中に、人の形が浮き上がっている。
翌日、私は一人でモールのプリクラコーナーに行った。機械は普通に稼働していた。
「ちょっとテストで撮らせてもらう」
私は一人で機械の前に立ち、モニターに映る自分の姿を確認した。誰も後ろにいない。シャッターを切り、プリントを取り出す。
プリントされた写真は、いつも通りの私 alone。
アプリでデジタルデータを確認すると——
背景が白くなっていた。そして、私のすぐ後ろに、先ほどの写真と同じ人物が立っていた。長い黒髪、白い服。顔は写っていない。手が、私の肩に添えられている。
機械のモニターには写らない。プリント写真には写らない。デジタルデータだけに写る。
私はその場で、プリクラの機械から離れた。
その後、Aに「もうプリクラ撮らない」と言うと、Aは不思議がっていた。
「だって、後ろに人が写ってたでしょ。あれ、何だったの?」
「……俺たち、プリクラ撮ったときは誰もいなかったよ」
Aが黙り込んだ。
「でも、私のスマホにも写ってるよ。あなたの後ろに立ってる人、私の方を見てる」
その言葉を聞いて、私は背筋が凍るのを感じた。
デジタルデータの写真。プリント写真。モニター。
どれにも写っていないのに、ある人には写る。ある人には写らない。
その写真の人物は、今も私の後ろに立っているかもしれない。