4号室は存在しない
2026年07月22日
👻 恐怖指数評価
「建築図面上は五戸建てですが、現地の測位結果からは六つ目が確認されました。ただし、それは物理的に配置し得る部屋ではありません。」— 一級建築士・現場報告書冒頭文(2026年3月)
発注者が最初に気づいたのは図面だった。建設から十二年経過した都心のマンション「松風園」の管理業者から、「4号室の面積が契約と食い違う」との連絡が入ったのだ。購入者は入居三年目、常に壁を計る習慣があった。「壁と壁の間が380ミリ長い。計算上入りません」
建築図面を確認すると確かに「4号室」は存在していた。しかし、敷地全体を覆う水平断面図には六つの枠が描かれていたのだ。そのうち一つ、中央の部屋だけは線が細く、角が四つとは数えられないほど歪んでいる。設計者が何者かに消されたかのような中途半端な状態だった。
「図面と実際の距離差は最大42.7センチ。ただしこの部屋に出入りする通路やドアは一切確認されていない」— 同報告書 3ページ
私は測量代行で呼ばれた人間だ。管理業者からは「建物の収束誤差かもしれない」と言われていたが、私の実測チームが一週間足らずで導き出した結論は真逆だった。六番目の部屋(4号室)が存在する。ただしそれは「本来あるはず」の五つの部屋の隙間に無理やり埋め込まれたように配置されていたのだ。隣接する3号室と5号室の内壁が、4号室に向けてわずかに湾曲している——まるで誰かが壁を押し込んで新しい部屋を作った痕跡。
「調査チームが3号室の内壁を破壊した際、内側から配管ではなく金属製の手すりが出てきた。階層間をつなぐ階段の手すりという判断。」— 同報告書 7ページ
「309段確認。標準的な五階建て分が収まるべき数に対し、実際は六階部分までの到達が計算される」— 同報告書 12ページ
最終段階で調査チームは一発屋の職人を呼び、5号室側の内壁をさらに破壊した。その先には、壁に埋もれる形で手すりが続き、下の階層へとつながっていたのだ。「本来なら地下一階」という記録はない。だがその階段の勾配から推測する限り、地下ではなく「もう一段上の空間」に通じているかのような構造だった。
「部屋面積約2.6平米の密室。調理器具がなく、トイレもないため居住不可能と思われたが、床一面に布や段ボールでできた『生活痕跡』が存在していた。」— 同報告書 13ページ
「部屋に住んでいる人の痕跡は一切消去されていない。ただし、誰の名前も記載されておらず、居住者の特定が不可能。」— 同報告書 15ページ
調査終了後、管理業者に結果を報告した。すると驚くべき返信が届いている。「4号室は計画段階で除外された部屋です」という内容だったのだ。
「しかし建築士の手元には『削除命令书』のような資料が存在しませんでした。」と現場チームが報告する。代わりに見つかっていたのは、別の階層に設置されたインターホンの録音データだけだった——それは毎晩特定の時刻に鳴り、応答がないまま終わるという記録だ。
この装置は物理的な配線と接続していない。ただし稼働している。原因不明。
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