実録。京都府内の老舗旅館に勤務していた女性の話です。

その旅館は、安土桃山時代に建てられたという歴史的な建物で、壁は土壁、床は板張りの古いタイプの旅館だった。客室は全部で12室あるが、そのうち301〜305号室は新築増設分。

「303号室、ずっと空室やねんな」

女将はそう言って、苦笑いした。新築増設の303号室がなぜかずっと予約の入らない部屋だったという。

ある日、深夜の3時頃。女将が2階の廊下を歩いていると、303号室から足音が聞こえた。

ドタ、ドタ、ドタ

重たい靴を履いた人物が、床を歩き回る音。

「……303号室に客が入ったのか」

フロントを確認したが、303号室の予約はなかった。女将が303号室のドアを開けると、中は完全に空だった。

ベッドには誰もいない。窓も鍵も掛かったまま。トイレも浴室も空。

「誰か入ってんのか」

と、女将が部屋を出ようとした瞬間、背後から足音が聞こえた。

ドタ、ドタ、ドタ

今度は女将の背後から、廊下へ向かっていく。

女将は振り返らなかった。振り返ったら怖いと思ったからだ。

翌日、女将は303号室の床を調べた。板張りの床に、大きな靴の痕が刻まれていた。直径30cmほどの丸い窪みが、部屋を一周するように付いていた。

「まるで、重たい物を引いて歩く人の跡や」

女将は303号室の鍵を全て取り上げた。だが、次の夜も足音が聞こえた。

303号室に誰も入っていないはずなのに。

女将は303号室の床を剥がした。板張りの下から、古い畳の床が出てきた。さらにその下から、小さな棺が一つ、見つかった。

棺の中には、小さな靴が一つ、入っていた。

女将は303号室を封鎖した。その旅館は、5年後に廃業した。

今でも、303号室から足音が聞こえるという人がいる。