終電の同じ乗客

実話。知人の話だけど、信じる信じないはあなた次第。

知人の佐藤(仮名)は都内在住のサラリーマンで、残業続きの日は終電で帰宅するタイプだった。

ある日、深夜1時過ぎの山手線内回り。彼が車両の端に立っていると、隣の男性がふと彼の方を見た。

「あ、こんにちは」

佐藤は軽くうなずいた。中年の男性。黒のスーツに白シャツ。どこにでもいそうな服装だった。

次の駅——田町——に到着し、門が開くと佐藤は目を閉じた。開けた瞬間、なぜか気になった。

男性が、同じ位置に立っていた。

佐藤は眉をひそめた。男も同じ服を着て、同じ鞄を持っている。ただ、目を閉じているだけだ。

「あ、こんにちは」

また同じセリフ。佐藤はうなずいた。次の駅——新橋——でも男は同じ位置に立っていた。

「あれ? この男、いつもこの電車に乗ってるのか」

佐藤は男をじっと見た。男は目を閉じている。まるで、ただ座っているだけのように。

でも佐藤は確信した。男の足元——床に落ちている新聞——が、田町で見たものと同じものだ。

翌日。佐藤は同じ電車に乗った。男はいた。同じスーツ、同じ鞄、同じ新聞。

「あ、こんにちは」

佐藤は黙ってうなずいた。次の日も、男はいた。

一週間後、佐藤は思い切って男に話しかけた。

「いつも同じ電車に乗ってますね。どこにお住まいですか?」

男は目を開けた。佐藤は背筋が凍るのを感じた。

男の目は、白かった。

「あ、こんにちは」

それだけだった。

佐藤はそれからその電車に乗らなくなった。でも、たまにふと気になってホームを覗くと——

男が、立っていた。

佐藤が電車に乗らない日でも、男は同じ位置に立っていた。

男は、佐藤を待っていたのだ。


今でも佐藤は電車に乗らない。