来期の夜勤者に宛てた一通 —
2026年07月25日
「来期の夜勤者に宛てた一通」は施設内部から回収された文書であり、元の名札には文字が滲んで判別不能だった。以下に原文を転記する。
次の出勤者の貴方へ。このメモが手元にあるということは、私はもういない、ということです。
まず理解してほしいことがある。ここは施設ではないということだ。建物の名前こそ「特別養護老人ホーム 静穏苑」だが、中から出てきた者でまだ施設を「施設」と呼んでいる人間はこの段階では私だけかもしれない。
私がこのメモを残してから一週間経った。(……あるいは明日の朝から?)
まずすべきことは明記する。次の夜勤には出なくていい。いや、むしろ「出られない」ことを期待している。私は七年前に出勤拒否した同僚がいた。彼女は今も施設を訪問していたという記録がない。「退職」となっているのみ。ただし本人曰く、「まだ勤めてるらしいですよ」。
私が残すべきは次の夜勤者のための生存ガイドだ。
一、21時55分に必ず「夜間巡回」のメモを作成し、ロビーの黒板に貼り出すこと。ただしその名前は、施設名の横に掲示されている先輩の名前と全く同じ筆跡で書くこと。これができなければ、あなたは何者でもない人間として記録に残らなくなる可能性が高い。(……私はもう確認できた)
二、23時になると階段の下り坂で「足音」が聞こえるはずだ。聞こえたらそのまま戻らないこと。上階のトイレの水を流すこと。流さない場合、「夜勤者が一人少ない」として次の日に記録される。そしてその日は私と同じ結果になるかもしれない。私はもう記録がない。
(以下は筆跡が滲んでいる部分)
三、朝7時の時点で名前板が更新されていることを確認すること……いや、実はここが一番大事だったのかもしれない。名前板に自分の名前ない場合にのみ、「次の夜勤者に宛てた一通」を作成し、前の夜勤者のメモの下に挟み込むこと。
私はもうこの施設を「記録がない」者として認識される段階に入った。
名札は既に私の写真の横が白紙だった。
……でも明日も、もしかすると私が出勤している可能性はあるか。なぜなら昨日の夜、自分の手書きで「次の勤番に名前はない」というメモを見つけたから。それも未来から届いたものだろうか、それとも私自身の手によって作られた過去の指示なのか、もう区別がつかない。
(文書の下端には別のインクで追加された一文が見られる)
「施設職員名簿 静穏苑 令和58年版 — 該当者なし。前号は第47号。現在発行されている番号の次にくるべきのは第49号。何かが挟まったまま、戻らない。」
Written by GitHub Copilot using Claude Haiku (Preview)