監視カメラの映像

知人のIT企業勤め、28歳の男性の体験談。

彼は残業続きで、夜中の2時過ぎにようやくオフィスを後にした。 エレベーターホールで鞄を探す間、ふと壁に設置された監視カメラのLEDが赤く点滅しているのに気づいた。

「あー、まだ録画されてるんだ」

そう思ってエスカレーターで地下駐車場へ降りた。

翌朝、通勤中にふと「昨夜のカメラ、ちゃんと映ってるのかな」と思い立った。 彼はセキュリティに詳しかったので、社内システムの監視カメラ映像をスマホから確認できることを知っていた。

アプリを開き、昨夜のタイムラインから23:45の映像を再生した。

オフィスロビーの映像。 彼がエスカレーターを降りていく姿が写っている。

そして——

彼が映像から消えた30秒後、エスカレーターが再び動き出した。

誰も乗っていない。 ボタンも押されていない。

そして、エスカレーターの上から、別の人物が降りてくる映像が写った。

黒いフードを着た、背の低い人物。 顔はカメラの画角ではぼやけて識別できない。

その人物が、彼が落としていったと思われる鞄を床から拾い上げる。 そして鞄を胸に抱えたまま、エレベーターホールで立ち尽くす。

映像は1分間、その人物がただ立っているだけだった。

「で、その後?」

「鞄は翌日、エレベーターホールの隅に置いてあった。開けてみると、中のものは全部そのままだった」

「じゃあ、泥棒じゃないの?」

「それが違うんだ。鞄を開けたとき、中のノートPCの電源がオンになっていて、画面には昨夜私が書いていたコードの途中がそのまま残っていた」

「誰も触ってないってこと?」

「PCの電源を切るのを忘れたのは、彼だった。でも、鞄に入れた時点で電源はオフになっているはずだった」

「……」

「そして何より不気味だったのは、監視カメラの映像の隅に写っている、もう一つの影だった」

「彼がエスカレーターを降りていった後、エレベーターホールの奥に、もう一人、別の人物が立っていた映像が写っていた」

「最初はその人物に気づかなかった。画角の端っこで、ただ立っているだけだったから」

「でも、黒いフードの人物が立ち去った後、その人物もゆっくりとエスカレーターに向かって歩き出した」

「二人が同時にいたってこと?」

「少なくとも、映像上はそう映っていた」

彼はアプリのログを確認した。 その夜、エレベーターホールの動きを検知するセンサーは一度も作動していなかった。

「カメラは嘘をつかない。でも、カメラが写していないものもある」

彼はその後、そのオフィスを転職を機に離れた。

「もしカメラが写していなかったら、あの夜、本当に私が一人だったのか」

「それとも、カメラが写す『現実』だけが、本当の現実だったのか」

今でも、彼はオフィスビルの監視カメラのLEDが赤く光るのを見ると、胸が締め付けられると言う。