借りた貸し倉庫に、自分の形跡だけが残っていた
2026年09月23日
実話。知人の体験談だけど、今でも背筋が寒くなる話がある。
知人の田中(28)が一人暮らしを始めて三ヶ月目のこと。引っ越しの荷物がまだ半分も片付かないまま、一時的に「タイムズ貸倉庫」に大きな段箱10個ほど預けた。都内某所の地下倉庫で、24時間入り放題、スマホでロックが開閉できるという便利サービスだ。
ある土曜日の午後、田中は箱から出し忘れたキッチン用品を取りに戻った。倉庫の廊下は蛍光灯がチカチカしながら照らす、薄暗いコンクリートの通路。自分のボックス番号「B-14」まで歩き、スマホで開ける。
「あ、あった」
棚の奥にキッチンタイマーが転がっていた。箱をまとめて片付けるつもりで、中身を全部出すのは次回にしよう――そう思って田中はその場を立った。
その夜、田中は奇妙なことに気づいた。
自分の部屋で、何かがカサカサと音を立てている。冷蔵庫の下の隙間から、何か小さな物が転がる音。何度探しても何もなかった。
「ネズミか?」
そう思い、翌日田中は害虫駆除の業者を呼んだ。結果、何もいなかった。
でも音は続く。
三日目、田中は深夜2時に起きた。トイレに行こうと寝室を出た瞬間、廊下の床でカチッ、カチッという金属音が聞こえた。水差しを床に置いた音に似ている。でも水差しはキッチンにある。
田中は静かにキッチンのドアを開けた。
何もなかった。でも、水差しが床に置かれている。
「自分が朝、置いたはずだ」
田中は信じられなかった。もう一度、水差しを棚に戻した。その夜も音はした。
四日目の夜、田中は音を追いかけた。
カチッ、カチッ。今度は自分の背後から聞こえる。振り向くと、廊下の奥に、ぼんやりとした影があった。
田中は後ずさりした。その時、スマホが鳴った。
貸倉庫のアプリから通知だった。
「B-14のロックが解放されました」
田中の心臓が止まりかけた。自分は何も操作していない。
通知のタイムスタンプを確認した。
2026年9月10日 02:00:00
田中が倉庫を訪れた日付だった。
その夜、田中は倉庫に行った。B-14のボックスを開けると、箱の数は変わっていなかった。でも棚の上に、一つだけ知らない水差しが置かれていた。
田中は逃げ出した。
今でもその水差しが、どこにあるのか分からない。