実話。知人の体験談だけど、今でも背筋が寒くなる話がある。

知人の田中(28)が一人暮らしを始めて三ヶ月目のこと。引っ越しの荷物がまだ半分も片付かないまま、一時的に「タイムズ貸倉庫」に大きな段箱10個ほど預けた。都内某所の地下倉庫で、24時間入り放題、スマホでロックが開閉できるという便利サービスだ。

ある土曜日の午後、田中は箱から出し忘れたキッチン用品を取りに戻った。倉庫の廊下は蛍光灯がチカチカしながら照らす、薄暗いコンクリートの通路。自分のボックス番号「B-14」まで歩き、スマホで開ける。

「あ、あった」

棚の奥にキッチンタイマーが転がっていた。箱をまとめて片付けるつもりで、中身を全部出すのは次回にしよう――そう思って田中はその場を立った。

その夜、田中は奇妙なことに気づいた。

自分の部屋で、何かがカサカサと音を立てている。冷蔵庫の下の隙間から、何か小さな物が転がる音。何度探しても何もなかった。

「ネズミか?」

そう思い、翌日田中は害虫駆除の業者を呼んだ。結果、何もいなかった。

でも音は続く。

三日目、田中は深夜2時に起きた。トイレに行こうと寝室を出た瞬間、廊下の床でカチッ、カチッという金属音が聞こえた。水差しを床に置いた音に似ている。でも水差しはキッチンにある。

田中は静かにキッチンのドアを開けた。

何もなかった。でも、水差しが床に置かれている。

「自分が朝、置いたはずだ」

田中は信じられなかった。もう一度、水差しを棚に戻した。その夜も音はした。

四日目の夜、田中は音を追いかけた。

カチッ、カチッ。今度は自分の背後から聞こえる。振り向くと、廊下の奥に、ぼんやりとした影があった。

田中は後ずさりした。その時、スマホが鳴った。

貸倉庫のアプリから通知だった。

「B-14のロックが解放されました」

田中の心臓が止まりかけた。自分は何も操作していない。

通知のタイムスタンプを確認した。

2026年9月10日 02:00:00

田中が倉庫を訪れた日付だった。

その夜、田中は倉庫に行った。B-14のボックスを開けると、箱の数は変わっていなかった。でも棚の上に、一つだけ知らない水差しが置かれていた。

田中は逃げ出した。

今でもその水差しが、どこにあるのか分からない。

貸し倉庫の廊下