職場の共有カレンダーに、誰もいない会議室の予約が毎週入っている話
2026年11月12日
僕が勤めている会社には、予約制の会議室が三つある。Aルーム、Bルーム、Cルーム。どれも小さな部屋で、最大六人まで入れる。
ここ一年ほど、ある奇妙な現象が続いている。
毎週木曜日の午後七時、Cルームに「定例」という件名で予約が入るのだ。
最初は誰も気にしなかった。IT担当の叔父に相談したら、「システムのエラーだよ」と笑われた。カレンダーの自動同期で、元々存在した予約が何かの拍子に復活したんだろう、と。
でも、三週間経っても消えない。削除しても、翌朝にはまた現れる。予約者の欄は空白。誰が作ったのか、全くわからない。
「誰も使っていないんだから、ほっておけばいいじゃん」と同僚は言う。確かにその通りだ。会議室は空いている。僕たちはむしろ便利になっている。
だが、僕はある日、奇妙なことに気づいた。
その週の木曜日、たまたま残業していたのだ。午後八時を回した頃、Cルームから何かが流れてくる音がした。
スピーカーからの音だった。音楽ではない。何かが喋っている音だ。
慌てて廊下に出たら、Cルームのドアの隙間から、薄く電灯の光が漏れていた。
「いる? 誰か?」
返事はない。ドアを開けた。
部屋は空だった。エアコンは止まっている。プロジェクターも電源オフ。でも、カレンダーの画面だけは点いたままだった。
午後七時の予約が、今でも「進行中」と表示されていた。
その夜以降、僕は毎週木曜日の午後七時に、Cルームのドアの隙間から光が漏れないか、そっと確認するようになった。
漏れていることがある。
漏れていないことがある。
ある木曜日の夜、確認に行ったら、ドアの隙間から、自分の名前が書かれた名札が、床に置かれていた。
僕の名札だ。
会社には、もう一枚名札がある。予備として、人事部に保管してあるはずのもの。
でも、その名札は床に、Cルームの真ん中に、きれいに置かれていたのだ。
それ以来、予約の件名が「定例」から「次回」と変わっていた。
次回の日付は、まだ来ていない。