共同洗濯室の廊下

実話です。僕の実の友人、Kの話。

Kは東京・世田谷の一戸建てではなく、三軒茶屋の古いアパートに一人暮らしをしている。三十代後半のサラリーマンで、平日は渋谷のオフィスに通っている。

そのアパートは築四十年ほどになる木造二階建て。一階に駐輪場、二階に住戸が六部屋。共同洗濯室は建物の奥、廊下の端にある。

問題は、ある水曜日から始まった。

Kは毎週水曜と土曜に洗濯をする習慣があった。共同洗濯室の乾燥機で四十分钟回して、廊下の物干し竿に干す。それだけのこと。

しかし水曜の夜、洗濯物を干して寝た朝に、Kは奇妙な光景を目にした。

干していたシャツが、一枚もなくならっていたのだ。

「忘れただけだろう」とKは思った。土曜の洗濯物も同じだった。干して寝て、朝に行くと、今度はズボンと下着だけがなくなっていた。残るのはタオルだけ。

おかしい。Kは洗濯物を干したことを覚えていた。廊下を通った時の乾いた布の匂いも覚えている。

そこでKは、スマホの録画機能を共同洗濯室に向けて設置した。

木曜の夜、洗濯物を干して部屋に戻る。Kはドアを閉める前に、スマホを洗濯室の隅に置き、録画を開始した。

そして、翌朝の録画映像を再生した。

映像は夜中の二時三十七分まで、何も変わらない廊下を映していた。その時、画面の端に人影が映った。

人影はKの洗濯物に近づき、ゆっくりと一つひとつ、干衣服を竿から外し始めた。

しかし、よく見るとその人影は、人間ではなかった。

細長い四肢を持ち、首が異常に長く伸びている。その姿は、まるで人が干した服を収めるために、竿の奥まで届かせようとしているように見えた。

しかし、何よりも恐ろしかったのは、その人影がKの洗濯物だけを拾い、廊下の奥の階段へと消えていったことだった。

Kは共有洗濯室の管理者に報告した。管理者は「そんなものはいるはずがない」と笑い、監視カメラもないことを理由に、それ以上何もしてくれなかった。

Kはその後、洗濯物を干さない日を作り始めた。しかし、ある金曜日の朝、Kはまた奇妙なことに気づいた。

洗濯物を干していないはずの廊下に、一枚の白いシャツが干されていたのだ。

それはKが先週失くしたシャツだった。

シャツは、湿った状態で、床に置かれていた。水滴が、階段の方へ向かって、一本の線を描いていた。

Kはその後、そのアパートを引っ越した。

しかし、新しいアパートに引っ越してからも、Kは共同洗濯室で洗濯物を干さないようにしている。

「干した服が戻ってくる」——それは、単なる親切ではなかったのかもしれない。