スマートロックの履歴に、自分以外の入室記録があった
2026年08月27日
知人が話していたことがある。一人暮らしを始めて半年目の話だ。
知人は東京・練馬区の築八年のマンションに一人暮らしをしていた。三階の角部屋。オートロックで、エントランスにはインターホンと防犯カメラがついている。特に問題ない物件だった。
知人がスマートロックを導入したのは、引っ越して四ヶ月目のことだった。キーを忘れるのが嫌で、スマホで解錠できるタイプにした。アプリには「開錠履歴」がついていて、いつ誰が解錠したかチェックできるようになっていた。
「便利だな」
知人は特に気にせずに使っていた。朝、出勤時に自動解錠。帰宅時にアプリで解錠。それだけのことだった。
ある日のことだった。知人は夜中、トイレのために起きた。その時、ふとスマホの通知を見た。
【スマートロック】22:47 解錠されました
「え?」
知人はすでに寝ていた。解錠した記憶はない。
「自動で閉まったのかな」
そう思って、知人はまた寝ついた。次の日、アプリの開錠履歴を確認すると、22:47に解錠された後、22:49に施錠された記録があった。
「誰かが入った?」
知人は心当たりがない。部屋の中を確認した。物は全部ある。盗られたものもない。冷蔵庫の食材も減っていない。
「設定のバグかな」
知人はそう思って、アプリを再起動した。しかし次の夜、また同じような通知が来た。
【スマートロック】03:12 解錠されました
今度は深夜三時。知人は完全に目覚めた。
「寝てる間に開いた?」
知人はアプリを開いて、解錠履歴を詳しく見た。IPアドレスの情報も表示されていた。解錠された時刻のIPアドレスは、知人の自宅のWi-FiのIPと一致していた。
「家の中で開いた?」
知人はその日から、解錠のたびに部屋の中を確認するようになった。でも、部屋に入るといつもと同じ。何も変わらない。
ある日のことだった。知人は出勤前に、ふと開錠履歴を見た。
【スマートロック】08:30 解錠されました 【スマートロック】08:31 施錠されました
知人は08:25に出かけた。その五分後、また開錠されたという。
「もしかして……」
知人は仕事から帰って、部屋を隅々まで確認した。クローゼットの中、ベッドの下、浴室、トイレ。どこにも誰もいなかった。
そして知人は、あることに気づいた。
開錠履歴の日付を詳しく見たのだ。
08:30の解錠時刻は、知人が家をあとにした時刻だった。でも、その日の開錠履歴には、もう一つ記録があった。
【スマートロック】08:28 解錠されました
08:28。知人が玄関のドアを開けた時刻よりも、二分も前だった。
「これは……」
知人はその日から、開錠履歴を毎晩チェックするようになった。毎日、知人が寝ている間に、解錠と施錠の記録がついていた。
でも、知人は眠れない。誰かが入っているのか。それとも、スマートロック自体の故障なのか。
知人は大家さんに連絡した。大家さんは「スマートロックは新しいから、バグがあるかもしれない。メーカーに連絡してみます」と言った。
数日後、メーカーからの連絡があった。
「開錠履歴のIPアドレスが、あなたのWi-Fiと一致しているということは、確かに家の中で開錠されています。しかし、あなたのスマートロックのバージョンには、夜間に誤検知するバグがあります。アップデートしてください」
知人はアップデートした。その日から、誤った開錠履歴は消えた。
知人はほっとした。でも、その夜、知人はまた通知を見た。
【スマートロック】02:00 解錠されました
今度は違う時刻。でも、IPアドレスは相変わらず自宅のWi-Fiだった。
知人はその時、ふと気づいた。
開錠履歴の日付を全部チェックしていた。でも、施錠履歴は見ていなかった。
施錠履歴を詳しく見た。
02:00に解錠された後、02:15に施錠された。
02:15。知人はその時、眠っていたはずだ。
でも、知人はもう一つ気づいた。
02:00の解錠時刻のIPアドレスは、自宅のWi-FiのIPアドレスと「微妙に」違っていた。
最後の桁が、一つ違っていた。
【スマートロック】02:00 解錠されました — IP: 192.168.1.xxx
【スマートロック】通常時 施錠 — IP: 192.168.1.xxy
「Wi-FiのIPが、自分だけで変わることなんて……」
知人はその夜、目を覚ましながらも、スマホを見なかった。枕の下にスマホを隠して、目を閉じた。
次の朝、知人がスマホを見た時、通知が一つ増えた。
【スマートロック】04:33 解錠されました
04:33。明け方。
知人は震える手で開錠履歴を見た。04:33に解錠され、04:35に施錠された。IPアドレスは、先夜の「微妙に違うIP」と同じだった。
でも、知人はもっと恐ろしいことに気づいた。
04:33の解錠履歴の横に、小さな注釈がついていた。
「認証方法: 生体認証」
生体認証。指紋か顔認証。
「誰かが、自分の生体情報を使って、開けた?」
知人はその日から、眠っても目を覚ますようになった。そして、毎日、開錠履歴をチェックするようになった。
ある朝、知人は開錠履歴を見て、冷や汗をかいた。
その日の開錠履歴に、知人が出勤前に解錠した記録があった。
【スマートロック】07:50 解錠されました
知人は07:50に解錠した。でも、その時刻のIPアドレスが、いつもと違っていた。
自宅のWi-Fiではなく、別のIPアドレスだった。
「外から?」
知人はその時、ふと気づいた。
開錠履歴の日付を全部並べてみた。毎日、夜中に解錠と施錠の記録がついていた。でも、その時刻は毎日違っていた。
ある日は02:00、ある日は03:12、ある日は04:33。
そして、その時刻の差を計算してみた。
02:00から03:12まで。72分。
03:12から04:33まで。81分。
04:33から次の日の02:00まで。9時間27分。
知人は気づいた。
解錠される時刻の間隔が、だんだん短くなっている。
次の解錠は、いつなのか。
そして、いつまで経っても、知人は次の解錠を待つことになった。