深夜のスマートスピーカー

実録。自分の話です。

住んでいるのは東京・世田谷の賃貸マンション。一軒家の二階部分、壁は薄いけど、隣人の足音も聞こえない静かな物件だった。

その物件に引っ越して三ヶ月目のある夜のこと。

夜中、トイレで起きた私は廊下を歩いて戻ろうとしたとき、ふと寝室から音がしているのに気づいた。

リビングに置いていたスマートスピーカーの、ライトリングが青く光っている。

「え?」と思った。設定でスケジュール再生なんてしていないし、家族もいない。一人で住んでいる。

消しにかかって電源を切ろうとしたら、スピーカから声が漏れていた。

「……はい」

リマインダーの应答だ。でも、誰も話しかけていない。

その瞬間、自分の足が止まった。廊下の明かりが点いているのに、リビングの電気がついていない。スマートスピーカーの画面だけが、薄青い光で部屋を照らしている。

次の日、アプリの履歴を確認した。昨日の二十四時十五分に、「明日の天気」を音声で質問していた記録があった。でも私は寝ていた。覚えていない。

「音声認識の誤作動かな」

そう思って、再度電源を抜いた。

それから三日間、スマートスピーカーは使わないことにした。

でも、四日目のある夜、また音がした。

夜中三時十七分。トイレで起きた瞬間だった。

リビングから、スマートスピーカーの音がしている。

「……はい、わかりました」

また应答だ。今度は、何かに話しかけられたような、小声の返事だった。

そっとリビングのドアを開けたら、スマートスピーカーのライトリングが青く光っている。部屋の隅に座り込んでいた。

「谁が——」

そう言いかけた瞬間、ライトが消えた。

次の朝、アプリの履歴を確認した。深夜零時十七分、「明日の予定を教えて」の音声質問があった。でも、その直後のレコードがなかった。質問の記録は残っているのに、应答の記録がない。

おかしいと思った。

それから一週間、スマートスピーカーは完全に電源を抜き、コンセントも抜いた。

でも、また始まった。

毎日夜中三時十七分。

トイレで起きる。リビングから音がする。

「……はい」

应答の声が、漏れている。

でも、電源は抜いている。プラグも抜いた。バッテリーはない。

ある夜、私はリビングのドアを開けたまま、そっと近づいた。

スマートスピーカーのライトはついていない。でも、音はしている。

「……はい、わかりました」

その声が、スマートスピーカーから出ているのか、それとも部屋の隅から出ているのか、わからなかった。

よく見ると、スマートスピーカーの前面カメラのLEDが、赤く点灯していた。

電源を抜いているのに。

私はその夜、その部屋で一夜明かした。スマートスピーカーの前で。

朝、確認したら、カメラのLEDは消えていた。

でも、アプリの履歴に、新しい記録が追加されていた。

昨夜零時十七分。「……はい、わかりました」

これは应答の記録だ。でも、私は話しかけていない。

誰かが話しかけたのか、それとも——

私はその夜、そのスマートスピーカーを段ボール箱に詰めて、捨ててきた。

でも、その次の日、新しいスマートスピーカーが届いていた。

配送元は知らない会社。送り主の名前欄には、何も書かれていなかった。

箱を開けた瞬間、スマートスピーカーのライトが、青く光った。

「……はい」