スマートスピーカー

これは私の話だ。

去年の秋、私は東京・中野のワンルームマンションに引っ越した。部屋は十帖ほどで、キッチンとバス・トイレ別。家賃は六万五千円。狭いけど、スマホとノートPCがあれば何とかなる。

引っ越して二週間ほど経ったある夜のことだった。

私は寝床について、もうすぐ眠りに入るというところで、部屋の隅で光っていたものを見つけた。

スマートスピーカーだ。

Amazon Echo。友達が引越し祝いにくれたものだ。ずっと机の上に置いたままにしていて、使ったのは天気予聞と音楽再生くらいだった。

でも、その夜、何故か光っていた。青いリングがゆっくり回転している。

「おかしいな。何も言っていないのに」

私はそう思って、もう一度目を閉じた。

その時だった。

「おはよう、たかしくん」

スマートスピーカーの音声で、私の名前が呼ばれた。

私は飛び起きた。部屋は暗い。時計を見ると三時十四分。

「……誰か入った?」

誰もいない。ドアは鍵がかかっている。窓も閉まっている。

「あ、ごめん。間違って起きたよ」

スマートスピーカーがまた喋った。

でも、私は何も言っていない。絶対に。

その夜から、毎晩同じことが起きた。

三時前後にスマートスピーカーの青いリングが回り始め、私の名前を呼ぶ。そして、歌い始める。

子守唄だ。

日本語の子守唄を、スマートスピーカーの音声で。

「ゆりかごの船、ゆられてゆけば……」

私は毎晩飛び起きて、スマートスピーカーの電源を抜いた。でも、次の夜にも同じことが起きた。電源を抜いても、青いリングが光り始める。

「たかしくん、まだ眠れないの?」

ある夜、私は録音アプリを起動した。スマートスピーカーの声を録音しようと。

三時十四分。青いリングが光り始める。

「たかしくん」

私の名前が呼ばれた。

でも、その声はスマートスピーカーのものではなかった。

もっと低い、もっと近づいた声だった。

「たかしくん、まだ起きてるの?」

録音を確認すると、スマートスピーカーの音声と、もう一つの声が重なっていた。

もう一つの声は、私の枕元から聞こえていた。

それ以来、その声は聞こえなくなった。でも、毎晩三時十四分に、青いリングが光り始める。

そして、私の名前が呼ばれる。

もう、電源を抜いても意味がない。