smart speaker in the dark

実話です。知人の体験談ですが、聞いていて背筋が凍りました。

彼は一軒家に一人で住んでいる三十代の男性。仕事柄、夜更かしが多く、部屋では常にスマートスピーカーを稼働させている。音楽を流したり、タイマーをセットしたりと、日常的に使いこなしている。

ある日、ふとスマートスピーカーのアプリを開いたら、奇妙な録音ファイルがいくつか見つかった。

「録音日時:03:14」「録音日時:03:17」「録音日時:03:22」

深夜、誰も話しかけていないはずの時間に、勝手に録音が開始されていたのだ。

「バグかな」

そう思い、適当に聞き流した。しかし翌週も同じ時間帯に録音ファイルが増えている。気になって、一つずつ再生してみた。

最初のファイル。03:14の録音。

最初は静かだった。ただ、遠くで風が鳴っているような、低いノイズが聴こえる。それがだんだんと、何か breathing するような音に変わっていく。

ゆっくりと、息遣いが近づいてくる。

知人は言った。

「その時、ふと思い出したんだ。スマートスピーカーの設置場所が、寝室のドアの真向かいだってことを」

息遣いは、ドアの向こうから聴こえている。寝室の中だ。

知人はその瞬間、自分は一軒家の二階の寝室で寝ていることに気づいた。一階の廊下にスマートスピーカーがある。ドアを閉めれば、息遣いが聴こえる距離ではない。

なのに、録音には、寝室の中で誰かが寝息を吸っている音が、くっきりと残っていた。

二番目のファイル。03:17。

今度は、もっと近かった。知人が振り返って、寝息が聴こえる方位を特定しようとしたら、録音の中で、その行為自体が写っていた。

「誰かが、スマホで録音の方位を特定しようとする音」

三番目のファイル。03:22。

この録音だけ、長さが違っていた。五分間。

最初は、ただの沈黙だった。そして、十秒ほど経ってから、知人は言葉を凍らせた。

録音の中で、低い声で、誰かが囁いていた。

「まだ、寝てるみたいだ」

知人はその夜、スマートスピーカーの電源を抜き、スマホで寝室のドアを覗き見た。

暗闇の中で、ドアの隙間から、床に何か置かれているのが見えた。

スマートスピーカーのLEDが、消えたはずの状態で、微かに赤く光っていた。

そして、録音が始まった。

知人は今でも、録音ファイルを聞くのが怖いと言う。

「最後に再生した時、録音の終わりに、自分の声が聴こえたんだ。でも、自分は寝てるはずがない。録音されている時に、自分が何を言ったのか、自分では覚えていない」

録音には、知人の声が、はっきりと残っていた。

「誰か、いる? 」

その声は、寝室の中から聴こえていた。

つまり、寝室の中に、知人とは別の誰かがいた、という記録だ。

知人はその夜、一軒家を飛び出した。

そして今でも、新しいスマートスピーカーを買うことができないと言う。

「あの録音の最後、五分間の沈黙の後に『まだ、寝てるみたいだ』と囁く前に、何か、壁の隙間から、息を吹きかける音が聴こえていたんだ」

「その息遣いが、寝室の方向を向いていた」

部屋の中に、誰もいないはずの時間に、誰かが息をしている。

そして、寝ているあなたのことを、見つめている。