スマートロックの履歴

実録の話。知人の20代社会員の男性、Aさんの体験談です。

Aさんは一人暮らし。新築マンションに引っ越した際、鍵の管理が面倒だと友人に勧められてスマートロックを導入した。スマホで施錠・解錠できるし、訪問者が来た際には一時的な暗号キーを発行できる。便利さのあまり、物理的な鍵自体を捨ててしまった。

引っ越して三ヶ月が経ったある日、Aさんはふとスマートロックのアプリを開いた。施錠・解錠の履歴がリスト形式で残っている機能があるのだが、それをほとんど見たことがないのだ。

その日、Aさんは同僚と飲み会を開いていて、帰宅したのは深夜三時。帰宅後にスマホを確認すると、スマートロックの通知が六件も来ていた。

「午前零時十二分 解錠」 「午前零時十四分 施錠」 「午前二時零七分 解錠」 「午前二時零九分 施錠」 「午前四時三十三分 解錠」 「午前四時三十五分 施錠」

Aさんは凍りついた。

自分は帰宅後、そのまま眠りについた。玄関のドアも閉めたままベッドに入っている。物理的な鍵も持っていない。誰かが勝手に部屋に入っているのか。

慌てて確認したところ、履歴に残っている「解錠」はすべてアプリから行われた記録だった。つまり、Aさんのスマホから遠隔で開けられている。

スマホをなくしていない。ログイン履歴も正常。二段階認証も有効。

それでも、深夜零時、二時、四時の三回、部屋が開けられている。

Aさんはその夜、警察に連絡した。警官が来て部屋を調べたが、侵入の痕跡はない。窓も割れていない。換気口も塞がっていた。

警官は「アプリの履歴が間違っているだけで、実際には誰も入ってないでしょう」と言った。

しかし、Aさんは納得できなかった。その夜、Aさんはスマホを家の中に置き、自分だけ外出した。そして、スマートロックのアプリからリアルタイムで状態を確認しながら、玄関のドアに耳を当てた。

午前二時零七分。

ドアから、カチリ、という音が聞こえた。

施錠されていたはずのドアが、解錠されたのだ。

Aさんはその場で警察に電話し、その場を離れた。その夜、Aさんはホテルに泊まった。

翌朝、部屋に戻ってみると、ドアは施錠されたまま。アプリの履歴にも「午前四時三十三分 解錠」の記録は残っていたが、ドアは施錠されていた。

Aさんはその後も、スマートロックのメーカーに問い合わせ続けた。しかし、「バグの可能性はありますが、侵入の証拠にはなりません」という答えだった。

Aさんは今でも、この話をすると震えると言う。

「部屋の中に入っているのは、スマホから開けられる『誰か』なんだよ」

そして、Aさんは今でも物理的な鍵を取り付けていない。

なぜなら、その物理的な鍵の穴さえないからだ。

おまけ

Aさんはその後、スマートロックのアプリで「音声ログ」機能を有効にした。

音声ログとは、ドアの前後で録音された音声を再生できる機能。

ある日、Aさんは午前二時の音声ログを再生した。

ノイズ。

そして、低い声で、何かを囁くような声が聞こえた。

「また、来た」

Aさんはその音声を聞きながら、その場で泣き出したと言う。

今も、その音声ログを聞き返すたびに、恐怖が蘇るそうだ。