実話です。僕の実の友人、Tの話。

Tは東京・世田谷の古いマンションの5階に住んでいる。築30年超の鉄筋コンクリート、エレベーターなし、廊下が薄暗い。大家さんから「階下の人が上を歩く音が響くんだよね」と言われたことはあったが、普通のことだと思っていた。

ある夜、2時頃。

Tは寝つきが悪く、スマホを見ながらベッドに横たわっていた。その時、足音が聞こえた。

ドタ、ドタ、ドタ……

階段を昇ってくる音。重たく、遅い、でも確実に上に向かっていく。

Tは思った。「あ、隣人が帰宅したのかな」

音は3階、4階、5階と上がっていく。Tの部屋は5階だ。足音が廊下に出て、Tの部屋の前の階段で止まった。

……

数秒の沈黙。そして、足音が去っていく。下へ降りていく。

Tは特になにも思わなかった。夜中だし、仕方ない。

しかし、その日以来、毎晩同じ時間が来る。2時頃。階段の足音。

Tは大家さんに電話した。「上階に誰か住んでるんですか?」

大家さんは黙って、しばらくしてから言った。

「……ないよ。このマンション、5階が最上階だ。6階なんてないよ」

Tは笑った。冗談だと思った。

次の夜も足音が聞こえた。そして次の夜も。

Tは我慢できなくなり、次の日の深夜に階段の階段にカメラを仕向けた。

2時。足音が聞こえた。

3階から上がってくる足音。4階。5階。Tの部屋の前の廊下で一旦止まる。

そして、足音が下へ降りていく。

Tはカメラの映像を再生した。足音が止まる瞬間、廊下の隅に、小さな影が映っていた。

誰かが、階段の隅に立っていた。

Tは窓から外を見た。マンションの裏手、階段の窓からは外が見える。階段の窓の向こうに、誰かが立っているのが見えた。

Tは震えた。その時、足音がまた聞こえた。

でも、今回は違う。上がってくるのではない。

降りてくる音だった。

Tの部屋の真上には何もない。屋上への鉄製の階段があるだけだ。

その音が、Tの部屋のドアのすぐ前で止まった。

ドタ、ドタ、ドタ……

……

Tのスマホが震えた。知らない番号からのメッセージ。

「今、あなたの部屋の前にいる」

Tは凍りついた。

部屋の前には、誰もいない。ドアのインターホンが鳴った。Tはインターホンを見た。

モニターには、階段が映っていた。

階段の真ん中で、誰かがTの方を向いて立っていた。

Tは息を止めた。その人物は、ゆっくりと、上を向いた。

Tの部屋の方を。

階段の頂点に立つ影のシルエット