知人が話していたことだが、とても怖くて忘れられないという。

都内某所の駅。深夜二時五十五分。終電をあと五分で逃す時間だ。彼は平日の残業で、やっと帰路につくところだった。

駅はガラガラだ。ホームには彼一人しかいない。改札口から遠い場所なので、監視カメラも遠くの方に一つあるだけ。

ホームの壁には、大きな広告看板が並んでいる。光沢のあるパネルで、蛍光灯の光が反射して、まるで鏡のように自分の姿を映し出す。

彼は疲れていたので、広告看板に映る自分の姿を見て、ため息をついた。

そして、そのときだった。

広告看板に映る自分の隣に、もう一人の影が立っているのに気づいた。

最初は「あ、そういえば」と思った。ふと振り返ったが、ホームには誰もいない。蛍光灯の光が遠くの柱に落ちているだけだ。

「映り込みかな」

そう思ってまた広告看板を見ると、影はそこに残っていた。自分の方を向いて、じっと広告看板の向こうから彼を見つめていた。

呼吸が止まった。

彼はゆっくりと、広告看板に近づいた。影も同じだけ近づいてくる。距離を詰めるにつれて、影の表情がはっきりと見えてきた。

口が開いていた。

叫んでいるのか、笑っているのか。光沢のあるパネルでは、正確な形がわからない。ただ、目だけがはっきりと見えた。

彼が広告看板から離れると、影も離れていく。しかし、彼は広告看板に映っている自分の姿は、自分よりもゆっくりと離れていった。

まるで、影が自分で動いているように。

彼は走って改札口へ向かった。振り返らない。エレベーターで地上に出ても、まだ足が動かなかった。

翌日、その駅へ友人と行った。広告看板の場所を撮影したが、映っていたのは彼一人の姿だけだった。

「でも、本当にいたよ」

知人はそう言って、目を伏せた。