最近、街の駅に増えているセルフ撮影の写真ブース。

改札を出た通路沿いに、薄暗い廊下の奥にぽつんと設置されている。外側は金属の扉で覆われ、中は個室。カードキーを投入すると中に入れる仕組みで、料金は30分1,000円ほど。

僕がそのブースを知ったのは、先月のことだった。

友人に「駅に新しい写真ブースできたよ。中、思ったより広くて面白いんだ」と言われて行ってみたら、案の定、そこはあった。白っぽい照明が点いたドアが開いていて、中は一般的な個室サイズ。鏡、三脚、レフ板、そして壁に掛けられたいくつかの背景シートのセット。

「一人で使ってもいいよ」と友人が言うので、試しに中に入った。

扉を閉めると、外の音が遮断される。静かだ。鏡に映る自分の顔を見て、三脚にセットしたカメラの起動ボタンを押す。タイマーが始まる。

1、2、3。

パチリ。

何度か写真を撮って、最後の一枚を撮ったときのことだ。

現像された写真を見ていて、ひっとした。

写真の隅に、写り込みがあったのだ。

鏡の反射で写る背景に、誰かの影が立っている。

僕は一人で入った。扉を閉めた後、外から入ってくるはずがない。確認した。

もう一度タイマーをセットして撮った。

現像された写真を見ると、その影が、鏡に映る自分の背後に、はっきりと立っていた。

顔は写っていない。ただ、黒い服を着た人物のシルエットが、鏡の向こうに立っているだけだ。

背の高さも、距離も、すべてが不自然だった。

僕は扉を開けて外を見た。誰もいない。廊下は薄暗く、遠くで電車の到着を告げるベルが鳴っている。

「もしかして、鏡の反射なのか?」

そう思い、もう一度中に入った。鏡を見る。自分の後ろには、誰もいない。

カメラを三脚から外して、手動で撮ってみる。

写真に写ったのは、鏡に映る自分の顔だけだった。

その夜、僕は友人に連絡した。

「あの写真ブース、もしかして故障していない?」

友人は「なぜ?」と返してきた。

「写真に、誰かが写ってたんだ」

友人はしばらく黙って、それから言った。

「僕も、同じことがあったよ」

その言葉に、僕は背筋が凍るのを感じた。

「写真ブースのシステムに、同じ報告が三件も来ている。でも、メンテナンス担当者は『異常なし』って言ってたらしい。僕、ちょっと行けないな。君ももう行かないほうがいいと思うよ」

その日以来、その写真ブースには行っていない。

ただ、一つ気になることがある。

友人が送ってきた写真の、鏡に映る人物の影だ。

その影の、足元をよく見ると、床に映る自分の影とは違う方向を向いていた。

つまり、鏡に映る僕は前方を向いているのに、その影は、鏡の向こう側に立って、こちらを向いていた。

鏡に映るはずのないものを、なぜ写真に写ったのか。

その写真は今も手元にある。

撮った本人がいないはずの、誰かの影が、静かに写っている。

写真ブースの鏡