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大学四年の冬、私はある24時間自習室をよく利用していた。

場所は都内某所の、地下にあり入り口もわかりにくい場所だ。月額三千八百円で、コンセント完備、WiFiも速い。受験生やフリーター、深夜まで働く人まで、様々な人が訪れる。私は毎週月曜から金曜の深夜二時から朝六時まで、決まってA-14番の席に座っていた。窓のない部屋だが、静かで集中できる。

ある金曜の夜、いつものように予約アプリを開くと、A-14番が「すでに予約済み」と表示されていた。

「え、でも今日私が予約したはずなのに」

アプリを再起動しても、再ログインしても同じだった。深夜二時過ぎ。他には空いている席が少なく、仕方なく三階の別フロアにあるB-07番を予約して席に着いた。

BフロアはAフロアより少し古い。換気がやや悪く、エアコンの音も気になる。でも疲れていたから、特に気にせずノートを開いた。

その時、ふと気づいた。

隣の席に、誰かが座っている気配がする。

息遣い。ページをめくる音。ペンが紙を走る音。

振り返ると、隣には誰もいない。

「……はあ」

そう言って、私は自分の席に戻ろうとした。でも、予約アプリを確認すると、B-07番は「予約済み」になっている。私が今座っている席が、自分では予約していないのに。

「おかしいな」

もう一度アプリを開き直すと、B-07番の予約者名欄に、何やら文字が浮かんでいた。

私の名前。

フルネーム。生年月日。大学の名前。

「このアプリ、個人情報入力いらないはずなのに」

指が震えた。画面を消して、もう一度つけた。名前欄は空欄に戻っていた。

「気のせいだろう」

そう自分に言い聞かせて、勉強を続けた。でも、隣の席からの音が止まらない。ページをめくる音。ペンを置く音。息遣い。

三十分立ったか、一時間立ったか。ふと、音が消えた。

静かになった。

そして、アプリの画面が自動で切り替わった。

予約完了画面。

予約者名:私の名前。

予約席:A-14番。

予約日時:昨日の夜十一時四十七分。

私は昨日の夜十一時四十七分には、もう寝ていた。スマホの睡眠モードがそれを証明している。

画面を閉じた。閉じたはずだ。でも、次の瞬間、また同じ画面が開いていた。

閉じる。開く。閉じる。開く。

手が震えて、アプリを閉じることができない。

その時、背後から、ページをめくる音が聞こえた。

振り返った。いない。

もう一度振り返った。いない。

三度振り返った。

A-14番の席に、誰かが座っていた。

背中を向けて、ノートに何かを書いている。その人の髪型、服、姿勢。

すべて、私にそっくりだった。

「…………」

声が出なかった。

その人がゆっくりと向き直った。

顔は見えない。暗くて、画面の光が顔を照らしているから、顔の部分は黒く影になっている。

でも、口元だけは見て取れた。

その人が、ゆっくりと笑っている。

そして、ノートに何かを書き始めた。ペンを走らせる音。紙を擦る音。

書き終えると、その人が私の方へノートを向けた。

画面に映ったノートの内容。

「次はあなたの番です。」

その瞬間、自習室の照明がすべて消えた。

誰かが叫んだ。誰かが駆け出した。でも、その声は私には聞こえなかった。聞こえなかったのではなく、私が聞こえられなかっただけかもしれない。

暗闇の中で、私の背後から、ページをめくる音が聞こえた。

次の日、私は予約アプリを開いた。

A-14番が「予約済み」。

B-07番が「予約済み」。

そして、予約システムにログインできない。

「パスワードが間違っています。」

私のアカウントが、存在しなくなっていた。

その後も、何度パスワードをリセットしようと試みたが、エラーが出るばかりだった。

最後に確認した予約履歴の画面には、一つだけ予約が残っていた。

予約者名:私の名前。

予約席:A-14番。

予約日時:明日の夜十一時四十七分。


今、私はこの文章を書いている。

手元にあるのは、紙に印刷した予約履歴のスクリーンショットだ。

背後から、ページをめくる音が聞こえる。

もう、振り返らない。