朝、出勤前にコーヒーを淹れる。いつも同じ手順で、同じタイミングで。それは安定感を求めるある種の儀式だ。

今日も同じようにドリッパーにセットし、湯煎釜から熱いお湯を注ぐ。30秒待って、ド drip… を待つ。私はその「滴る音」が大好きだった。静かな朝の中に一筋のリズムを刻む音が、一日の始まりを実感させてくれた。

だが今日、一滴も出なかった。

ドリッパーの中を確認する。コーヒー粉はすでに沈み込んでいて、水面は静かだ。「もしかして目詰まり?」とフィルターを取り出すと、何かが見えた。フィルター全体が、白い何かに覆われているのだ。

よく見てみると、フィルターを穴が全部塞がれていた。まるで蜘蛛の巣のように、透ける部分のない白い膜が張られている。指先で触ると硬いくらい乾燥している。

「何か変わった? 水道の水が変わった?」と妻に聞いた。 「あら。私さっきから台所見てないんだけど」と彼女は答えた。

フィルターを水洗いして使ってみるも、また止まる。今度は粉の量を変え、新しいドリップ式のものを使って試みるがだめだった。水はポットの中に残り続けているのだ。

試しに水道水を直接カップに注ぐと、当然ながら流れた。問題はコーヒードリッパーの中だけだ。粉を触ってみると、少し湿っている。「粉が湿ってる」と私は思った。

しかし違う。フィルターに張られた膜の上には何も付いていない。指先も拭けば濡れていない。まるでフィルター自体が何者かによって「閉じられて」しまったかのようでした。

朝の5:30頃と記録に残ったのは、家族全員で台所に立っていた瞬間だった。 妻は気づかなかった。子供は見なかったふりをして笑っているだけだった。その笑みが、今でも忘れないのだ。

私は一日中仕事に集中できず、ただ「朝のコーヒーが淹れられない日のこと」を考えていた。昼休みにネットで調べると、コーヒー粉が湿気に触れて目詰まりすることはあり得るが「フィルターに膜が張られている」という報告は全く見つからなかった。

午後にはまた試してみた。新しいドリッパーでも同じことだった……いや、待てよ。 実はその後の日に一度だけ、ちゃんとコーヒーが出たことがあるのだ。ただそれはもう、朝ではなかったのでした。

「フィルターが閉じられていた。」

今思うと、もしかして「フィルターを塞ぐのは水のためじゃなかったのかもしれないね」なんて、朝から呟かれた時が、実は最後の正常な時刻だったのかもしれませんよ。