死の次代の時計

「新宿区歌舞伎町から約四百メートル。路地裏に店名看板のない二手仕入れ店舗が、平成三十年に突然閉店した。現在、警察の押収データディスクの中から発見されたログ記録から店内の実態を探る。」


【データ種別:商品在庫CSV】保存先:/inventory_db.csv 最終更新2026.3.15

日時 品名・状態 入庫元(前所有者) 販売先 備考欄
2024/11/02 セイコー・グランドセイコー・機械式 男性62歳 前所有者:交通事故死
2025/02/19 ロレックス・エクスプローラーI 女性47歳(元看護師) 前所有者:自殺、確認済
2025/08/30 カルティエ・タンクフランセーズ 男性71歳 前所有者:不審、脳卒中と判定

【データ種別:苦情対応履歴】保存先:/complaints/ 2025.4〜2026.3.31

KQ-9187(2025/04/12) 「買ったらすぐに止まった。購入日の夜に息子が交通事故で亡くなったと連絡が入った」→返信:「保証対象外」「返品不可」

KQ-9412(2025/06/28) 「購入時計を何度も夢に見た。前オーナーの顔が時計画面の中に映り、私を見つめていた」→返信:「心当たりのない苦情です」、ステータス:解決済み

KQ-9703(2025/12/08) 「店員に、『この時計は、もうすぐ次のお客さんも死ぬ』と言われた」と。最後に追加された一行:「…私こそが次のお客だったと知った時、どうすればいいんですか?止め方—」


【データ種別:押収ノート(手書き・ボールペン)】出所不明 / 内部資料扱い

「在庫には二つのタイプがある。一つは『死者の手』——前オーナーが死んだことを物語る時計。もう一つは『次世代の手』」

「この二つを分けるのは簡単だ。在庫タグの裏に隠してあるから。」

私も、去年の秋に買ってしまった。3時47分で止まっている時計を。奥さんの死んだ時刻だ。手放せなかった。今はもう店内にはない——自分がいつも身につけているから気づかないだけで、同じものはずっとここにある」。

最下部、小さく追記: 「押収する前にこのノートを書いたのは……最後の客でした。彼の名前は—」
*文面が途絶える。「最後」という漢字の上に、別の青色インクで二重線を引き消されている。**


【データ種別:内線通話録音要約】2026.4.2 18:32 第三課

「店員からの聴取は完了。店主は四月以降、行方不明と認定」 「…あの時計を押収しなかったのはなぜ?」 「本人の持ち物として検死資料に提出済み。ただし——」「ただしなにか?」 「その時計、データベースに登録された四十七件の『前所有者死亡』と同じ時間で止まっている。03時47分。」 「つまり—」 「うん……まだ追加された。注意事項欄に」。