!聴取室の机に置かれたファイルは、私(第三病棟・担当医=K)が事件直後に回収したもの。以下はその抜粋である。患者の自筆と思われる筆記体の痕が何箇所か滲んでいる。日付のないページがあり、インクの乾きが異なる部分が混在する点に注意されたい。

=== 記録1(最古の日付推定) ===

初めまして。私は今日からここにおりましょうか。「肩こりがひどい」と言っただけなのに、なぜこの場所に連れてこられたのか……わかりません。

最初の施術者の名は「T先生」。白衣は白く、手袋も白かった。が、手術帽の下に顔が見えない。いつも下を向いている。

「姿勢を正してください」と言われたので背筋を伸ばした。すると、胸骨のあたりになにか重たいものが張り付いた感覚がして……

=== 記録2(日付不明) ===

T先生の指が私の肋骨に挿入された。皮膚は裂けなかった。指先が軟骨の隙間に入ったとき、骨の中からなにか硬いものを触った。石か、金属か。あるいはもっと古いものか。

「おめでとうございます」とT先生が言った。「彫刻が始まりました。」

私は笑えなかった。息ができなくなるほど胸が圧迫される。毎日の施術で、胸骨と肋骨の間に何かが溜まっていく。体重が増えるのではない。体積が増えている。

=== 記録3(日付なし) ===

レントゲンを見てしまった。胸郭の中に……石のような陰影がある。丸い。直径十五センチほどか。心臓よりも大きい。

T先生が言った。「これはあなたの骨に成り代わるための原型です。完成すれば、あなたは生まれ変われます。」

生まれ変わる? 何の為に?

=== 記録4(日付なし) ===

毎日、T先生の指は胸へ入っていく。皮膚は裂けることはないが、中の皮ふが切り裂かれる感じ。新しい彫刻が成長する。骨格から生えてくる。もはや呼吸は胸でなくお腹でするようになった。呼吸のたびに腹が膨らむ。鼓動も肋骨ではなく胸骨そのものから聞こえる。カチリ、カチリ。石が衝突する音。

入院患者の皆が私を避けている。隣に座ると、誰かが立ち去る。看護師もT先生の施術後には手袋を変えている。二枚目を使用する。

=== 記録5(最も古い日付ではないページ) ===

昨夜、胸骨の下から何か動くのを感じた。石が揺れるのではない。生きているように動いている。足のようなものが肋骨の間から伸びているのではないか?

朝起きたらベッドシーツに土がついていた。私の寝汗ではない。湿った黒い土。庭園がないこの病院内でどこから来るのか……

暗い灰白色の背景に、人体の胸骨・肋骨がX線のように浮かび上がっている。肺の位置が不自然な丸い影で満たされ、肋骨の間から細長い指のようなものが外に向かって伸びようとしている様子が描かれている

=== 記録6(最終ページ) ===

今日、T先生が言った。「もう完成です。」

私の胸から手が現れた。骨の中から生えた手。石の指は長すぎて机の上に届かなかった。T先生の白衣の袖を掴んだ。冷たい。しかし力がある。

最後の手術のとき、私は意識を取り戻していた。T先生が何者でもないことがわかった。白衣の下には体がない。白衣は空気で立っているだけだ。そして胸の中の彫刻は……私そのものだった。

「あなたはもう完成形です。」

手が胸骨を押し開いた瞬間、私の呼吸が終わったのではなく、石の呼吸が始まったのだと理解した。

=== 医師Kのメモ ===

患者A(仮名)は記録6を執筆後、病室で死亡確認された。遺体安置所の担当医から連絡が入った。「胸骨が異常に硬く、骨臼内に異物が確認できる」とのこと。詳細な病理報告が到着次第、追記する見込みである。


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