コンクリート床に鉛筆で記された「8F」の文字だけが白く浮かび上がり、周囲は墨色の塗潰し

以下は2025年12月、東京都文京区某再開発ビル・竣工検査時の記録資料一部である。本来監理者側が保有すべき書類であるが、当該建物の施工会社・建設業〇三六号の代表者が事件発生後の三月に死亡し、現在行方不明となっているため第三者から回収されたもの。

第一資料:竣工図(令和三年十二月三日、建築士事務所より提出分)

{ class=”wikitable” style=”margin-left:auto; margin-right:auto;”    
! 項目   記録内容  
  - ! 対象物件   再開発ビル・文京区〇丁目一二番地
  - ! 種別   共同住宅
  - ! 階数記載   地上八階、地下二階
  - ! 延べ床面積   約六千四百五十二点八平方メートル
  - ! 構造   RC造・鉄骨補強部分あり
  }    

しかし本竣工図の第十一ページと第十二ページの間に──つまり七階建平面図から八階建平面図への移行箇所の直前、一〇センチ前後の空白領域に、何らかの理由で意図的に切り取られたとみられる跡が確認された。断面線のみが二ヶ所わずかに残っているが、その間の記述は存在しないのだ。

第二資料:施工監理メモ(元・現場代理人・山本浩太氏の遺品より)

山本氏は2026年一月五日に自宅にて発見時既に死亡しており、死因は急性心筋梗塞とされている。しかし遺体が横たわっていた机の上にはペンキ缶が転倒したうえで以下のようなメモが書かれた状態だった。

記録者: 山本浩太 / 施工監理第15日 (令和三年十二月十八日)

■現場状況: 建設会社の指示で地下二階と一階の間に「技術空間」と称する階層追加の工事が施された。外観からは確認困難な高さ約二百四十センチの閉鎖的空間であり、建築基準法別表第八項第一号に定める用途区分には該当しないとの回答。ただし施工図面が存在していない。

■注意すべき点: 一階から二階へ昇った階段が途中で行き止まりになるケースが三箇所、施工段階で確認されていた。この場合でも八階までの外回りエスカレーターは通常運用可能のため問題ないと判断されている。しかしエスカレーター下部の空洞部分について、内部に「配管スペースではないが何かが収められている」との目撃情報が二件報告されている。(要出典:現場監督・高橋氏より電話口頭にて)

■問題記録: 竣工図上は八階だが、実測値では外側から確認したエスカレーターと階段線の終端が「九階相当地点」まで到達している。つまり建築物は法上八階であるのに内部構造上は少なくとも一層多く存在するということ。

山本氏の署名のすぐ下に別のペンで以下の一文が追記していた。文字は小さく、筆圧の変化から急いで書かれたものと推定される。

「階段を上った先に部屋がある。しかしどこからも確認できない。私は一度だけ入った。中から戻れなかったふりをして出た。」

第三資料:消防検査対応書類(令和四年一月二十日作成)

{ class=”wikitable” style=”margin-left:auto; margin-right:auto;”    
! 項目   記録内容  
  - ! 提出書類数   八階建て分(通常基準の八枚)
  - ! 確認済届出番号   XXX-二〇二五-一二三四五
  - ! 備考欄記載   「追加階層に関する技術資料は建設会社側で未提出。しかし法令上の対応として八階建てとして受理済み」とのこと。
  }    

ただし消防検査官・佐野氏の供述文書では以下のように記されている。

【令和四年一月二十三日聴取記録】

「現場検証時、建築士側に『エスカレーターの下に空間があるが用途区分不明』と指摘したところ『八階の設備室です、見せられません』と回答された。しかし内部確認を求めたところ、その部屋からは外部への出口が存在しなかった。閉鎖空間である。」

「さらに追加で聞いたことがある。当該建物の住居者がエスカレーター使用後、『エレベーターが止まるはずのない階に停車したことがある』との苦情を二件報告しているらしい。建築確認時には八階建として受理済み、つまり九階部分の設置は法的に未認可のはずである。」「八階建てのビルに、内部には明らかに九層分の階段構造が確認できた。」

「私がその日の段階で確認した情報では……いや、もう書かない。記録から抜粋する。」


最終所見(第三者回収者・匿名)

本書類を監理者側から引き出した時点で、建設会社の元代表者がすでに死亡し、建物の入居者の三割が「転居した」として回答を拒否。しかし残りの入居者への聴取では以下の事実のみ確認された。

  1. 当該ビルの最上階住戸は八Fとされている
  2. しかしエスカレーターは八F以上の表示が可能であり、実際に利用者の半数以上が「九階部分」にエスカレーターが停止した経験を報告
  3. 建設当時の竣工図・建築確認図書ともに一切の資料を保有している建屋はなく、行政側の記録上も八階建て分のみが存在するとして受理されている
  4. この建物の設計に携わった建築士は発注後、三ヶ月以内に「精神科への転院」を余儀なくされていること。その際の医療記録では「実在しない空間への恐怖」「建築内の階の数が法と異なる」という主訴が確認できる

資料中にあるもう一つの矛盾:竣工図の第十一ページと第十二ページの間に、本来存在すべき八階平面図にのみ記されるべき配管・構造線が途切れている。切断箇所の断面は新しいものであり、切り離された直後に何者かがその部分を持ち去った可能性が高い。

持ち去られた側の資料の内容については、回収当時既に発見不可とされている。ただし当該建物の八階住戸の天井からは、鉛筆で「10F」と記された痕跡が確認されており、本来存在してはならないべき十階相当の数値が書き残されていた。