南米のどこか、国境が曖昧なあたり。川沿いの村々で共通して語り継がれる恐怖譚がある。

その名もラ・ロロナ。泣く女。


彼女は夜ごと水辺をさまよう。白装束のまま。長い黒髪が胸元に濡れついた顔に触れる。涙声に似た、誰かを呼ぶ声が風に乗って運ばれてくる。「Los niños, mis hijos…(子供たちよ、私の大切な子たち…)」

村の子供たちは夜の外に出ない。川に近い場所に近づくのも禁忌である。しかし誰もなぜ恐れるのかを完全に理解しているわけではない。ただ「あの声が聞こえたら、家に帰れ」と口を揃えるだけだ。


ある夏の夜。15歳のマテオは友人と川べりで酒盛りをしていた。陽気な会話が最中に、遠くから嗚咽のような音が滲み込む。「聞けよ、あいつがまた始まった」一人が笑いながら言った。すると笑いは消えた。

あの声はただの泣き声ではなかった。誰かを呼び捨てにするような。自分の名前を呼ぶ声にも聞こえる。

マテオはふと川面に目を落とした。月明かりの下、水面が何かに揺れた。白く細長い人影。そしてゆっくりと向こう側に近づいてくる足元。水面から顔が浮かび上がる。目がない。「Aquí… estoy…(ここにいる…)」

マテオの足は自分の意思では動かなかった。

その時、誰かが肩を掴んだ。「帰れ!」友人の叫びで彼は飛び起きた。川面には月だけが乗る波紋だけ。彼が握っていたのは、水に濡れた小さなサンダル。自分のものではない色と形だった。


次の日、マテオは川の対岸から2人の男の子が見つかったと言っていた。二人とも朝早くまで川遊びに出ていた。そのうちの一人の親戚が「あの夜、ラ・ロロナの声で呼ばれて出かけた」と泣きながら説明した。

村ではその後三十年間、同じことが繰り返される。毎年夏になると、夜ごとに川沿いで泣く女の声が聴かれたと証言する人々が現れる。


この話の恐ろしさは「彼女は何も悪さをしているのではない」点にある。彼女はただ、取り戻せないものを求め続けるのだ。川に溺れ死んだ自分の子供たちを探すためだけが永遠の理由。その無垢な狂気が恐怖を生む。

しかしある研究者が指摘した。「ラ・ロロナ伝説は国境を越えて拡散する」。スペイン人によってメキシコから北米へ、そこからまた異質な形で世界中に広まった。「川沿いの泣く女」の原型自体がすでに千年以上の歴史を持つという。


あなたは今、窓を開けているだろうか。

もし夏の間、夜中にどこか遠くの水面から泣き声が聞こえたとしても「風だ」と聞き流す方がいい。その声は決して自分の名前を呼んでいないと、自分自身に言い聞かせてほしい。

しかし万が一、あなたの家の前に小さな濡れたサンダルが放置されていた日には……何も触らないでください。そっと閉めた窓の向こうから、誰かが微笑んでいるかもしれないからだ。 水の面を横切る白色の影