存在しない勤怠
2026年07月25日
👻 恐怖指数評価
*「勤怠データに矛盾あり。当該者の実働履歴(720h/月)がシステム記録上確認される。ただし該当者本人の回答『私は休職中です』と照合したところ、一致率は0.3%。以下、三者証言の差異を記録する。」
—— 社内コンプライアンス調査部 memo-0917
2026年4月1日午前零時十七分。
営業第三部長の中沢は、システム上の異常通知を見ていた。「勤怠データ更新エラー:担当者の実働日時が過去3ヶ月間一致しません」という内容だ。
通常なら一時的なバグで済むものだが、中沢は初めて見たその通知画面に違和感が残り、直ちにデータを確認した。
「田辺俊介の過去90日間の実働時間が720時間となっています。また、同様の異常が4名に確認される状態です」
システム担当者は即座にそう返答したが、中沢は質問した。「それは一体どういう意味ですか?」
30秒の沈黙の後、「田辺氏には昨日も本日勤怠データが入力されていると判明します」と回答された。しかしその答えを聞いた瞬間、中沢は胸元に冷たいものを感じた。「では……田辺氏は本日、出勤しているということですね?」
「実働データ上は、YESです」
第二部長の佐久間は、4月5日の調査メモにこう残した。
「田辺俊介氏を確認のため、直ちに本人所在と面談を実施するよう手配したところ、以下のような回答が返された。」
「おれっつは現在休職中。3月末からです」
しかし直後の記録には矛盾が存在した。「休職申請者は当該者名下のシステム上該当なし」「ただし実働時間は3月末日まで連続で記録されている」という情報である。
佐久間はさらに調査を進め、田辺氏の作業机へ現地で確認を依頼した。結果、「机上に個人の所有物は一切見られない状態」と報告書に記載された。
だが不思議なことに、『「田辺俊介」という名前を持つ勤怠管理アカウントは現在も正常稼働中で、毎晩23時47分になると新たなデータが自動入力される』というシステムログが存在していた。佐久間のメモにはこう記述されている——
「当該時間帯に該当部屋周辺を調査したが、『誰か作業をしているような気配』がある者が確認されたものの、具体的な人物像の把握は不可能でした」という内容だ。
現場監督の小林は4月10日、最終証言として以下のようなメモを残した。
「実態として田辺俊介という人物は存在せず。ただし以下のデータが矛盾なく格納されている」
- 勤怠システム上のアカウント(稼働中)
- パスワード履歴(2025年8月分からの連続更新)
- 作業日報(過去全期間の記述あり、詳細度は極めて高い)
- 上司への報告メール送信記録
- メンバーへの指示ログ
しかし、「本人に確認したところ『私はそのような人間と会ったことがありません』」「「田辺俊介」という名刺を目にした経験がない」
*「当該期間中に本件に携わった全関係者が『事実不明』と回答した場合、次の調査対象はおそらくあなた自身である」
「私は今日、実働時間の記録がシステム上確認されたので出勤処理を完了した。ただし、実際に誰か同僚の作業風景を見たという記憶はない」「明日も同じ結果を記録することになるだろう」というメモが最後に残され、その後その部門における全証言が同一内容を維持し続けることを示すデータのみが収集された。
調査は「未解決」で終了した。
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