地下駐車場の様子

実話。友人のAの話だ。

彼は都内某所のマンションの最上階、二十八階に住んでいる。地下に三階分の駐車場があるタイプで、エレベーターから降りて自分の駐車スペースまで約八十メートル歩く。

最初は普通だった。

地下一階の駐車場の入り口にある自動ドアが開く時、いつもより少し遅いと感じたのがきっかけだった。三秒、いや五秒ほど開くのに時間がかかっていた。そんなものかと思って乗り込んだ。

階段を降りる通路の照明が、三つに一つくらいの頻点滅していた。

「また電球が切れたか」と思いながら地下二階に着いた。自分の駐車場はBブロックの端っこ、入り口から一番遠い場所にある。

鍵を差してドアを開け、荷物を積んで、また鍵を差して閉めた。

その時だった。

頭上で、ブーッ、ブーッ、と警報音が鳴った。

駐車場の他の車のブレーカーが鳴っているのか、それとも自分の車か。一瞬迷ったが、地下二階には自分の車しか止まっておらず、他の車は地下三階の別のブロックにあるはずだと気づいた。

「自分の車か」と思ってドアを開けようとした時、警報音が止んだ。

静寂。

そしてまた、ブーッ、ブーッ、と鳴り出す。

今度は自分自身の車の警報音だと確信した。ドアロックがかかったままなのか。もう一度鍵を差して解錠した。

警報音は止まらない。

「おかしいな」と思いながら、もう一度解錠を試みた。三回目に鍵を差した時、警報音が完全に止んだ。

ほっとして車に乗ろうとした時、ふと気づいた。

自分の車の横、隣りのスペース。そこに、何者かが立っていたのだ。

地下二階の駐車場の照明は暗い。しかし、人間のシルエットが立っているのは見えた。

背は低く、腕が少し不自然な角度で体の側面から出ている。まるで、何かに引き寄せられるように、自分の駐車スペースの方へ身体を傾けている。

息が止まった。

その時だった。

隣の駐車スペースに止まっているはずがない車に、警報音が鳴り始めたのだ。

ブーッ、ブーッ、ブーッ、

自分の車ではなく、隣りの車だ。

しかし隣りには車など止まっていない。駐車スペースは空欄で、白い線だけが暗闇に浮かんでいる。

それでも警報音は鳴り止まない。

さらに、頭上からもブーッ、という音が聞こえた。

地下三階からも、同じ警報音が聞こえてくるようになった。

全部の駐車スペースでブレーカーが鳴り始めているのか。それとも、どこかにいる何かが、警報音を再現しているのか。

Aは車に飛び乗り、鍵を差した。エンジンがかからない。

何度回しても、エンジンがかからない。

その時、隣りの駐車スペースの上空で、警報音が突然止んだ。

次の瞬間、地下三階の方向からブーッ、という音が、少しずつ近づいてくるのが聞こえた。

地下三階から。地下二階の自分の駐車スペースへ向かって。

Aは必死にキーを回し続けた。

そして、エンジンがかかった瞬間、頭上でも隣りからも、すべての警報音が同時に鳴り響いた。

バックミラーに見えたのは、自分の車のすぐ後ろに、先ほどのシルエットが立っていたことだ。

彼はそのまま車を走らせ、駐車場から逃げ出した。

その夜以来、Aは地下駐車場には入らないようにしているという。

エレベーターで直接地上の駐車場に出ている。

しかし、たまに、エレベーターが停まる時、ブーッ、という音が聞こえることがあるそうだ。

地下の階が表示された時だけ、だ。