地下駐車場の監視カメラに、誰かが写っていた
2026年09月02日
実話です。僕の話じゃない。同期の佐藤の話。
佐藤は港区のビルで一人で働いている。深夜まで残ることは珍しくなく、だいたい午前零時過ぎに地下駐車場へ降りて車へ向かう。地下二階。エレベーターから降りてから車庫まで六十メートルほど、蛍光灯が並ぶ長い通路だ。
ある金曜の夜、佐藤は帰宅後、ふと「今日は遅いからカメラ見て帰ろう」と思った。
ビルには監視カメラが十二台ついていて、スマホアプリでリアルタイム閲覧できる。管理会社がおととしに入れたシステムで、佐藤もアプリは入れていたが、普段は見ない。
その夜、佐藤はベッドでスマホをいじりながら、ふと地下駐車場のカメラを一つずつ確認し始めた。
一階の入口。普通。 二階のエントランス。普通。 駐車場Aゾーン。普通。
三台目、Bゾーンのカメラ。
佐藤はスマホの画面を止めた。
画面の中に、誰かが立っていた。
地下二階のBゾーンは死角が多く、柱の陰に車が数台停まっている。そのうちの一台の横に、黒いシルエットが立っていた。
「おやっ?」
佐藤は画面を拡大した。ピクセルが粗くて顔はわからない。しかし、その人物はカメラをじっと見つめているように見えた。
佐藤は心臓が高鳴るのを感じた。
「もしかして、今、駐車場に誰かいる?」
アプリには「モーション検知」の機能がある。動いた物体があれば通知が来る。佐藤はその通知履歴を開いた。
今日の日付の下に、一つだけ通知が残っていた。
18:47 Bゾーンモーション検知
午後六時四十七分。佐藤が職場を後にしたのは午後六時三十分。つまり、佐藤が駐車場を後にした十五分後、誰かがBゾーンで動いたのだ。
佐藤は息を止めて、もう一度ライブ配信を開いた。
画面の中の人物は、まだその場所にいる。
今度は、ゆっくりと、カメラの方へ手を上げている。
佐藤はスマホを置き、窓から駐車場を見下ろそうとした。地下二階は窓がない。ビルは周囲を高い建物に囲まれている。
「た、たしかに……カメラに写ってた」
佐藤は震える手で管理会社へ電話した。
「地下二階Bゾーンに、誰かいるみたいです」
管理会社の担当者はこう答えた。
「すみません、Bゾーンのカメラは先月故障していて、今は撮影していません」
佐藤はスマホの画面を見た。
リアル配信だ。
Bゾーンのカメラは、今も生で繋がっていた。
画面の中のカメラは、ゆっくりと、左右に回転し始めた。
故障したはずのカメラが、動いている。
佐藤は家を出て、警察へ行った。警察が駐車場へ向かい、Bゾーンを捜索した。
誰もいなかった。
しかし、カメラの記録サーバーには、その日のモーション検知のデータが残っていた。
佐藤がアプリで見たライブ配信の、ちょうど三十分後。
Bゾーンのカメラは、駐車場の隅に停められた一台の車の横に、新しい人影を記録していた。
佐藤が電話をした直後の映像だ。
その人物は、カメラの真下まで歩き寄り、顔を上げている。
ピクセルの粗い画面でも、はっきりとわかった。
その人物の顔は、佐藤にそっくりだった。
佐藤は、その夜、一睡もできなかった。
次の日、佐藤は駐車場へ行った。Bゾーンの隅。
その場所で、地面に、小さなものが落ちていた。
佐藤が拾って近づけた。
それは、佐藤の社員証だった。
佐藤が失くした覚えのない、社員証。
裏面には、黒いインクで、こう書かれていた。
「次は、僕の番だ」
佐藤はすぐに会社を辞めた。
しかし、佐藤が辞めた後、新しい人がそのビルで働き始めた。
ある夜、深夜。
その新人はふと、スマホのアプリを開いた。
地下駐車場のカメラを、一つずつ確認し始めた。
一階の入口。普通。 二階のエントランス。普通。
三台目、Bゾーンのカメラ。
画面の中に、誰かが立っていた。
佐藤にそっくりな人物が、カメラをじっと見つめていた。