地下駐車場の監視カメラ

実話です。僕の話じゃない。同期の佐藤の話。

佐藤は港区のビルで一人で働いている。深夜まで残ることは珍しくなく、だいたい午前零時過ぎに地下駐車場へ降りて車へ向かう。地下二階。エレベーターから降りてから車庫まで六十メートルほど、蛍光灯が並ぶ長い通路だ。

ある金曜の夜、佐藤は帰宅後、ふと「今日は遅いからカメラ見て帰ろう」と思った。

ビルには監視カメラが十二台ついていて、スマホアプリでリアルタイム閲覧できる。管理会社がおととしに入れたシステムで、佐藤もアプリは入れていたが、普段は見ない。

その夜、佐藤はベッドでスマホをいじりながら、ふと地下駐車場のカメラを一つずつ確認し始めた。

一階の入口。普通。 二階のエントランス。普通。 駐車場Aゾーン。普通。

三台目、Bゾーンのカメラ。

佐藤はスマホの画面を止めた。

画面の中に、誰かが立っていた。

地下二階のBゾーンは死角が多く、柱の陰に車が数台停まっている。そのうちの一台の横に、黒いシルエットが立っていた。

「おやっ?」

佐藤は画面を拡大した。ピクセルが粗くて顔はわからない。しかし、その人物はカメラをじっと見つめているように見えた。

佐藤は心臓が高鳴るのを感じた。

「もしかして、今、駐車場に誰かいる?」

アプリには「モーション検知」の機能がある。動いた物体があれば通知が来る。佐藤はその通知履歴を開いた。

今日の日付の下に、一つだけ通知が残っていた。

18:47 Bゾーンモーション検知

午後六時四十七分。佐藤が職場を後にしたのは午後六時三十分。つまり、佐藤が駐車場を後にした十五分後、誰かがBゾーンで動いたのだ。

佐藤は息を止めて、もう一度ライブ配信を開いた。

画面の中の人物は、まだその場所にいる。

今度は、ゆっくりと、カメラの方へ手を上げている。

佐藤はスマホを置き、窓から駐車場を見下ろそうとした。地下二階は窓がない。ビルは周囲を高い建物に囲まれている。

「た、たしかに……カメラに写ってた」

佐藤は震える手で管理会社へ電話した。

「地下二階Bゾーンに、誰かいるみたいです」

管理会社の担当者はこう答えた。

「すみません、Bゾーンのカメラは先月故障していて、今は撮影していません」

佐藤はスマホの画面を見た。

リアル配信だ。

Bゾーンのカメラは、今も生で繋がっていた。

画面の中のカメラは、ゆっくりと、左右に回転し始めた。

故障したはずのカメラが、動いている。

佐藤は家を出て、警察へ行った。警察が駐車場へ向かい、Bゾーンを捜索した。

誰もいなかった。

しかし、カメラの記録サーバーには、その日のモーション検知のデータが残っていた。

佐藤がアプリで見たライブ配信の、ちょうど三十分後。

Bゾーンのカメラは、駐車場の隅に停められた一台の車の横に、新しい人影を記録していた。

佐藤が電話をした直後の映像だ。

その人物は、カメラの真下まで歩き寄り、顔を上げている。

ピクセルの粗い画面でも、はっきりとわかった。

その人物の顔は、佐藤にそっくりだった。

佐藤は、その夜、一睡もできなかった。

次の日、佐藤は駐車場へ行った。Bゾーンの隅。

その場所で、地面に、小さなものが落ちていた。

佐藤が拾って近づけた。

それは、佐藤の社員証だった。

佐藤が失くした覚えのない、社員証。

裏面には、黒いインクで、こう書かれていた。

「次は、僕の番だ」

佐藤はすぐに会社を辞めた。

しかし、佐藤が辞めた後、新しい人がそのビルで働き始めた。

ある夜、深夜。

その新人はふと、スマホのアプリを開いた。

地下駐車場のカメラを、一つずつ確認し始めた。

一階の入口。普通。 二階のエントランス。普通。

三台目、Bゾーンのカメラ。

画面の中に、誰かが立っていた。

佐藤にそっくりな人物が、カメラをじっと見つめていた。