地下駐車場でバックミラーが映した光景
2026年08月31日
毎日通う地下駐車場が、ある日を境に怖になった
妻が実家に帰っている間、一人暮らしをしている知人の話です。
都内の中高層マンションの地下二階に駐車場がある。毎朝車に乗って通勤する際、そして毎晩帰宅した際に、同じスペースに車を停めている。慣れきった空間で、何の違和感もなかった。
それが変わったのは、ある火曜日の夜だった。
残業で終わるのが普段より一時間遅く、地下駐車場に着いたのは夜中の十時を回っていた。いつもならエンジンをかけて五秒もあれば始まる車なのに、その日はキーを回しても「ケ ケ ケ」という音だけが響くだけで、一向にエンジンがかからない。
バッテリー上がりの可能性もある。とりあえず再度キーを回してみる。同じ音。
その時だった。
バックミラーに、何かが映ったことに気づいた。
後方の駐車スペースに、白い影が立っていたのだ。
最初は駐車場の柱の影だと思った。明かりが反射して白く見えているだけだろうと、思おうとした。しかし、その影がゆっくりと、前に一歩踏み出していた。
「……誰?」
声を出すことさえ忘れていた自分がいた。バックミラーには、白い影が段々と近づいてきているのがはっきりと映っていた。
エンジンがかからない。キーを回しても音だけが響く。
バックミラーの影は、自分の車の後部バンパーに到達しようとしていた。
その時、エンジンが「ゴォン」と音を立てて始まった。
妻に帰っている間、一人で住んでいる知人は、冷や汗で服がびっしょりになるのを感じながら、急いで駐車場を後にした。
翌日以降の出来事
次の日、知人はその駐車スペースに車を停め直すことにした。
そして、バックミラーを覗き込んだ。
後部座席の後ろに、小さな黒い手が、カーテンの隙間から覗いているのだ。
知人は叫び声を上げながら車を降りた。警察を呼んだ。車内を検索したが、黒い手の痕跡以外に、誰もいない。
しかし、後部座席のクッションを動かしてみると、そこに一枚の写真が挟まっていた。
それは、知人が昨夜駐車場に車を停めた瞬間を、後方から撮影した写真だったのである。
知人はそれ以来、そのマンションには引っ越さないことにした。
毎日通う空間こそが、最も危険なのだ。