毎日通う地下駐車場が、ある日を境に怖になった

地下駐車場のバックミラー

妻が実家に帰っている間、一人暮らしをしている知人の話です。

都内の中高層マンションの地下二階に駐車場がある。毎朝車に乗って通勤する際、そして毎晩帰宅した際に、同じスペースに車を停めている。慣れきった空間で、何の違和感もなかった。

それが変わったのは、ある火曜日の夜だった。

残業で終わるのが普段より一時間遅く、地下駐車場に着いたのは夜中の十時を回っていた。いつもならエンジンをかけて五秒もあれば始まる車なのに、その日はキーを回しても「ケ ケ ケ」という音だけが響くだけで、一向にエンジンがかからない。

バッテリー上がりの可能性もある。とりあえず再度キーを回してみる。同じ音。

その時だった。

バックミラーに、何かが映ったことに気づいた。

後方の駐車スペースに、白い影が立っていたのだ。

最初は駐車場の柱の影だと思った。明かりが反射して白く見えているだけだろうと、思おうとした。しかし、その影がゆっくりと、前に一歩踏み出していた。

「……誰?」

声を出すことさえ忘れていた自分がいた。バックミラーには、白い影が段々と近づいてきているのがはっきりと映っていた。

エンジンがかからない。キーを回しても音だけが響く。

バックミラーの影は、自分の車の後部バンパーに到達しようとしていた。

その時、エンジンが「ゴォン」と音を立てて始まった。

妻に帰っている間、一人で住んでいる知人は、冷や汗で服がびっしょりになるのを感じながら、急いで駐車場を後にした。

翌日以降の出来事

次の日、知人はその駐車スペースに車を停め直すことにした。

そして、バックミラーを覗き込んだ。

後部座席の後ろに、小さな黒い手が、カーテンの隙間から覗いているのだ。

知人は叫び声を上げながら車を降りた。警察を呼んだ。車内を検索したが、黒い手の痕跡以外に、誰もいない。

しかし、後部座席のクッションを動かしてみると、そこに一枚の写真が挟まっていた。

それは、知人が昨夜駐車場に車を停めた瞬間を、後方から撮影した写真だったのである。

知人はそれ以来、そのマンションには引っ越さないことにした。

毎日通う空間こそが、最も危険なのだ。