地下駐車場のセンサーライトが、私の前に点いた
2026年12月02日
知人が話していた。2023年の秋のことだ。
東京・練馬区の地下駐車場に面したマンションに住む、三十代半ばの男性の話。彼は毎晩、地下二階に車を駐車していた。
地下駐車場は広い。AゾーンからFゾーンまで、六つのエリアに分かれている。各エリアの入り口に、人感センサーの照明がついている。人が通ると白く点灯し、三十秒後に消灯する。
毎晩、車に荷物を積み込んで、自分のエリアのセンサーをくぐり抜ける。点灯して、消灯して。何の問題もない日常だった。
それが、十月のある夜から始まった。
知人はいつも通り、車に買い物袋を積み込んでいる。階段から地下駐車場へ降りていくと、ふと気づいた。
自分のエリアのセンサーライトが、点いているのだ。
知人はまだそのエリアにいない。階段を降りて、エントランスの扉を開けたところだ。センサーが反応する距離には、まだ二十メートルほど離れている。
なのに、ライトがついている。
「あ、もう点いたのか」と知人は思い、歩き始めた。すると、次のエリアのセンサーが点く。その次も。その次も。
知人がまだ到達していないエリアのセンサーが、次々と点灯していく。
知人は足を一歩、止めた。
消灯するまで、三十秒待つ。次のエリアのライトが消えて、次の次のエリアが点く。まるで、知人が通る前に、誰かが先に通り抜けていくように、ライトが順番に点いていく。
知人は背筋が凍るのを感じた。
「……誰かいる?」
声に出して、聞いてみた。
返事はない。地下駐車場には、エアコンの換気音だけが、うっすらと響いている。
知人は、怖かったけど、もう引き返すこともできなかった。車がまだ乗っている。仕方なく、歩き続けた。
自分のエリアのセンサーが点く。いつもの通りだ。
でも、その次のエリアのライトが、点かなかった。
知人は立ち止まった。自分のエリアを抜け、次のエリアに入った。センサーが反応するはずだ。なのに、暗いままだ。
知人は懐中電灯で照らした。誰もいない。
「センサーが壊れたのか」と、知人は思い直して歩き出した。その時だ。
後ろから、センサーが点いた。
知人が今、立っているエリアの、入り口側のセンサーが、点いたのだ。知人が通った時についたはずのライトが、知人が通り過ぎた後で、再び点いたように。
知人は振り返った。
背後には、誰もいない。
でも、その次のエリアのセンサーが、点灯した。
知人が振り返ったその瞬間に、後ろのエリアから、ライトが伝わっていく。まるで、知人が振り返ったことで、何かが動き出したように。
点灯。消灯。点灯。消灯。
知人は走った。階段へ。
階段の扉を開けて、上り始めた。振り返ると、地下駐車場のライトが、知人が上っていった方向へ、次々と点いていく。
知人は、その日以来、地下駐車場を歩くたびに、センサーのライトを確認するようになった。
自分の後ろから、点いていないか。
自分の前に、点いていないか。
知人は、今でも、地下駐車場のセンサーライトが、自分の前に点くことがあるという。
知りが知らないところで、誰かが通っているのだと。
地下駐車場で、センサーライトが点く順番に、気づいてほしい。
あなたの後ろから、点いていないか。