地下駐車場のセンサーライト

知人が話していた。2023年の秋のことだ。

東京・練馬区の地下駐車場に面したマンションに住む、三十代半ばの男性の話。彼は毎晩、地下二階に車を駐車していた。

地下駐車場は広い。AゾーンからFゾーンまで、六つのエリアに分かれている。各エリアの入り口に、人感センサーの照明がついている。人が通ると白く点灯し、三十秒後に消灯する。

毎晩、車に荷物を積み込んで、自分のエリアのセンサーをくぐり抜ける。点灯して、消灯して。何の問題もない日常だった。

それが、十月のある夜から始まった。

知人はいつも通り、車に買い物袋を積み込んでいる。階段から地下駐車場へ降りていくと、ふと気づいた。

自分のエリアのセンサーライトが、点いているのだ。

知人はまだそのエリアにいない。階段を降りて、エントランスの扉を開けたところだ。センサーが反応する距離には、まだ二十メートルほど離れている。

なのに、ライトがついている。

「あ、もう点いたのか」と知人は思い、歩き始めた。すると、次のエリアのセンサーが点く。その次も。その次も。

知人がまだ到達していないエリアのセンサーが、次々と点灯していく。

知人は足を一歩、止めた。

消灯するまで、三十秒待つ。次のエリアのライトが消えて、次の次のエリアが点く。まるで、知人が通る前に、誰かが先に通り抜けていくように、ライトが順番に点いていく。

知人は背筋が凍るのを感じた。

「……誰かいる?」

声に出して、聞いてみた。

返事はない。地下駐車場には、エアコンの換気音だけが、うっすらと響いている。

知人は、怖かったけど、もう引き返すこともできなかった。車がまだ乗っている。仕方なく、歩き続けた。

自分のエリアのセンサーが点く。いつもの通りだ。

でも、その次のエリアのライトが、点かなかった。

知人は立ち止まった。自分のエリアを抜け、次のエリアに入った。センサーが反応するはずだ。なのに、暗いままだ。

知人は懐中電灯で照らした。誰もいない。

「センサーが壊れたのか」と、知人は思い直して歩き出した。その時だ。

後ろから、センサーが点いた。

知人が今、立っているエリアの、入り口側のセンサーが、点いたのだ。知人が通った時についたはずのライトが、知人が通り過ぎた後で、再び点いたように。

知人は振り返った。

背後には、誰もいない。

でも、その次のエリアのセンサーが、点灯した。

知人が振り返ったその瞬間に、後ろのエリアから、ライトが伝わっていく。まるで、知人が振り返ったことで、何かが動き出したように。

点灯。消灯。点灯。消灯。

知人は走った。階段へ。

階段の扉を開けて、上り始めた。振り返ると、地下駐車場のライトが、知人が上っていった方向へ、次々と点いていく。

知人は、その日以来、地下駐車場を歩くたびに、センサーのライトを確認するようになった。

自分の後ろから、点いていないか。

自分の前に、点いていないか。

知人は、今でも、地下駐車場のセンサーライトが、自分の前に点くことがあるという。

知りが知らないところで、誰かが通っているのだと。


地下駐車場で、センサーライトが点く順番に、気づいてほしい。

あなたの後ろから、点いていないか。