最初の封筒は、三月十五日に届いた。

普通の白い封筒だった。切手は貼ってあったが、差出人の名前と住所はなかった。宛名は私の名前と住所だけが、几帳面な楷書で書かれていた。

中には便箋が一枚。

『三月十二日(水)午前九時三十分、あなたは渋谷駅から徒歩五分のカフェに入りました。カウンター席に座り、ホットのラテを注文しました。ノートパソコンを開いて、午後一時まで作業していました。途中、トイレに立ったとき、バッグをカウンターに置いたまま離れましたね。三分間。誰も触れませんでした。今回は。』

郵便受けに届いた封筒

差出人の欄は、空白だった


読んだとき、最初は笑いそうになった。

確かにそのカフェには行った。ラテも飲んだ。でも私のことを知っている誰かが、悪趣味な冗談を送ってきたのだと思った。

友人に心当たりを聞いた。全員が首を振った。


二通目が届いたのは、一週間後だった。

『三月十七日(火)夜、あなたは母親と電話しました。二十二時四分から二十三時十二分まで。会話の途中、「一人暮らしは慣れた」と言いながら、実際には泣きそうになっていましたね。電話を切ったあと、しばらくソファに座ったままでいた。

カーテンを閉め忘れていましたよ。』

体が冷えた。

母との電話は確かにその時間だった。泣きそうになっていたのは本当だ。誰かに言ったことはない。

そして、カーテン。

私の部屋は五階だ。向かいに建物はない。

夜のアパートの窓

五階の窓に、どこから見ていたのだろう


警察に相談した。担当の警官は丁寧に話を聞いてくれたが、最後にこう言った。

「今のところ、犯罪行為があったとは言えません。脅迫でもなく、接触もない。もし危険を感じるなら、引っ越しを検討されてはどうでしょう」

「でも、誰かが私を見張っているんです」

「向かいに建物がないとすると……かなり離れた場所から、望遠で見ている可能性があります。ただ、それも証明ができません」

三通目を見せると、警官の顔が少し変わった。


三通目にはこう書かれていた。

『三月二十日(金)夜中の二時、あなたはトイレに起きました。廊下の電気をつけずに歩いた。右足の小指を、玄関の段差に当てました。声を出さずに痛みをこらえていましたね。

部屋の鍵は、ちゃんと閉まっていましたよ。確認しました。』

「この手紙……部屋の中から書いたとしか」

警官は言葉に詰まった。

「鍵は確認した、という一文。それが意味することに、二人とも気づいていた。」


四通目は、三月二十三日に届いた。

今日だ。

消印を確認した。昨日の日付だった。

開ける手が震えた。

『三月二十二日(土) あなたは一日、家にいました。 午後、宅配便が来ました。インターホンで確認せずに開けましたね。 夜、この手紙が届くことに気づいた。 読んでいる今、あなたはきっと怖くなっています。怖くて当然です。でも大丈夫。

まだ、会いに行けていないから。

今は、もうすぐです。』


私はすぐに鍵を確認した。閉まっていた。チェーンもかけた。

スマートフォンで警察に電話しようとしたとき、郵便受けに何かが入る音がした。

立ち上がれなかった。

しばらくして、ようやく玄関まで行き、郵便受けを開けた。

封筒が入っていた。

差出人はない。

今日の日付。

扉の下に滑り込む封筒

ポストではなく、直接、扉の隙間から入れられていた


開けた。

便箋が一枚。日付は今日。時刻まで書かれていた。

三分後の時刻。

そして一行だけ。

『鍵を開けてください。もう、外にいます。』


私は今、ドアを見ている。

チェーンはかかっている。

でも三通目には「鍵は確認した」と書いてあった。チェーンがかかっていても、鍵は確認できる。それが可能な位置から、確認した、ということだ。

ドアの外に物音はない。

だから誰もいないのかもしれない。ただの嫌がらせかもしれない。

もしかしたら、ドアホンで確認すれば、何もない廊下が映るだけかもしれない。

私の手が、ドアノブに触れた。


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