「中古スマホに、未来からのメッセージが届き始めた」
2026年09月27日
知人の話なんだけど、今でもスマホを握りしめて眠れないらしい。
知人の小林(26)が去年の秋に買った中古スマホ。新宿ハードオフで八千円。画面にヒビもなく、バッテリーの健康度も九割超え。中古スマホとしては、もうけだったと思う。
家に帰って初期化もせず、そのままSIMカードを差し替えて使った。電話番号だけが変わって、あとは前の持ち主のデータが全部残っている。写真、メモ、LINEのアカウント。
「あ、この人、まだログインしたままなんだ」
プロファイル画像は、短髪の女性が写っている。背景は海。何とも穏やかな写真だ。
小林は気にせず使い始めた。写真も消さず、メモもそのまま。ラインだけ、ログアウトしようと思ったその時だった。
メッセージが着信した。
相手は「母」。前の持ち主の母だろう。
「今日も一人で海に行ってきたの? 大丈夫?」
小林は首をかしげた。前の持ち主の母が、間違えて送信したのだろう。返信もせず、ブロックすればいい。
でも、その瞬間、別のメッセージが着信した。
「駅に着いた? 雨が降ってるから傘持ってきて」
送信時刻を確認した。三時間後。
「……ふざけてる?」
小林は画面を消した。でも、また着信した。今度は別の相手。「同期の佐藤」。
「明日の会議、資料送ったっけ? 確認して」
送信時刻は、翌日の午後一時。
最初は、前の持ち主が予約送信をしたのかと思った。でも、予約送信に未来の時刻を設定する人はいない。
次の日、小林は試しにメッセージを送った。
「前の持ち主の方ですか? メッセージの時刻が未来になってます」
即答だった。
「誰ですか? このスマホ、捨てましたけど」
小林は背筋が凍った。
「捨てたなら、なぜメッセージが届くんですか?」
「あ、それ。LINEのメッセージが溜まってるだけだと思います。再ログインしたら、溜まっていたメッセージが一斉に来る」
「でも、時刻は未来なんです」
「……え?」
その瞬間、また着信した。今度は「母」。
「今、部屋にいますよね? 窓の外を見て」
小林は、窓の外を見た。雨だった。昨日のメッセージと全く同じ天気だった。
「何の冗談ですか」
「部屋に戻ってください。今、あなたの背後に、誰かがいます」
振り返った。誰もいない。
でも、スマホの画面が、勝手に動いた。カメラアプリが起動し、自撮りモードになっている。
画面には、小林の背後が映っていた。
廊下に、ぼんやりとした影が立っている。
小林は飛び起きた。スマホを床に落とした。カメラアプリは、まだ起動したまま。
画面には、小林が床に落ちている姿が映っていた。
撮影時刻を確認した。
2026年9月28日 04:15:00
次の日、九月二十八日。午前四時十五分。
スマホは、床に落ちたままだった。
小林は、そのスマホを買い取店里にもどした。
「このスマホ、変です」
店員は首を傾げた。
「何が?」
「前の持ち主のアカウントが、ログインしたまま。そして、未来の時刻のメッセージが届くんです」
店員は、スマホを手に取った。画面を操作した。
「あ、このLINE、ログアウトしてください」
「どうやって?」
「設定から、アカウントを削除すれば」
小林は、その場でログアウトした。LINEのアカウントを削除し、スマホを初期化した。
新しいスマホにSIMカードを差し替えた。
その夜、小林は安眠した。
次の朝、スマホを確認した。メッセージは来ない。LINEのアカウントも、新しいもの。
「終わった」
そう思っていた。
一週間後、またメッセージが着信した。
相手は「母」。でも、このスマホに「母」の連絡先は登録していない。
「昨日、海に行ってきたの? 楽しそう」
送信時刻は、昨日の午後三時。
小林は、そのスマホを捨てた。
でも、新しいスマホにも、同じメッセージが届いた。
「今、あなたの背後に、誰かがいます」
振り返った。誰もいない。
でも、スマホの画面が、勝手に動いた。
カメラアプリが起動し、自撮りモードになっている。
画面には、小林の背後が映っていた。
廊下に、ぼんやりとした影が立っている。