知人の話なんだけど、今でもスマホを握りしめて眠れないらしい。

知人の小林(26)が去年の秋に買った中古スマホ。新宿ハードオフで八千円。画面にヒビもなく、バッテリーの健康度も九割超え。中古スマホとしては、もうけだったと思う。

家に帰って初期化もせず、そのままSIMカードを差し替えて使った。電話番号だけが変わって、あとは前の持ち主のデータが全部残っている。写真、メモ、LINEのアカウント。

「あ、この人、まだログインしたままなんだ」

プロファイル画像は、短髪の女性が写っている。背景は海。何とも穏やかな写真だ。

小林は気にせず使い始めた。写真も消さず、メモもそのまま。ラインだけ、ログアウトしようと思ったその時だった。

メッセージが着信した。

相手は「母」。前の持ち主の母だろう。

「今日も一人で海に行ってきたの? 大丈夫?」

小林は首をかしげた。前の持ち主の母が、間違えて送信したのだろう。返信もせず、ブロックすればいい。

でも、その瞬間、別のメッセージが着信した。

「駅に着いた? 雨が降ってるから傘持ってきて」

送信時刻を確認した。三時間後。

「……ふざけてる?」

小林は画面を消した。でも、また着信した。今度は別の相手。「同期の佐藤」。

「明日の会議、資料送ったっけ? 確認して」

送信時刻は、翌日の午後一時。

最初は、前の持ち主が予約送信をしたのかと思った。でも、予約送信に未来の時刻を設定する人はいない。

次の日、小林は試しにメッセージを送った。

「前の持ち主の方ですか? メッセージの時刻が未来になってます」

即答だった。

「誰ですか? このスマホ、捨てましたけど」

小林は背筋が凍った。

「捨てたなら、なぜメッセージが届くんですか?」

「あ、それ。LINEのメッセージが溜まってるだけだと思います。再ログインしたら、溜まっていたメッセージが一斉に来る」

「でも、時刻は未来なんです」

「……え?」

その瞬間、また着信した。今度は「母」。

「今、部屋にいますよね? 窓の外を見て」

小林は、窓の外を見た。雨だった。昨日のメッセージと全く同じ天気だった。

「何の冗談ですか」

「部屋に戻ってください。今、あなたの背後に、誰かがいます」

振り返った。誰もいない。

でも、スマホの画面が、勝手に動いた。カメラアプリが起動し、自撮りモードになっている。

画面には、小林の背後が映っていた。

廊下に、ぼんやりとした影が立っている。

小林は飛び起きた。スマホを床に落とした。カメラアプリは、まだ起動したまま。

画面には、小林が床に落ちている姿が映っていた。

撮影時刻を確認した。

2026年9月28日 04:15:00

次の日、九月二十八日。午前四時十五分。

スマホは、床に落ちたままだった。

小林は、そのスマホを買い取店里にもどした。

「このスマホ、変です」

店員は首を傾げた。

「何が?」

「前の持ち主のアカウントが、ログインしたまま。そして、未来の時刻のメッセージが届くんです」

店員は、スマホを手に取った。画面を操作した。

「あ、このLINE、ログアウトしてください」

「どうやって?」

「設定から、アカウントを削除すれば」

小林は、その場でログアウトした。LINEのアカウントを削除し、スマホを初期化した。

新しいスマホにSIMカードを差し替えた。

その夜、小林は安眠した。

次の朝、スマホを確認した。メッセージは来ない。LINEのアカウントも、新しいもの。

「終わった」

そう思っていた。

一週間後、またメッセージが着信した。

相手は「母」。でも、このスマホに「母」の連絡先は登録していない。

「昨日、海に行ってきたの? 楽しそう」

送信時刻は、昨日の午後三時。

小林は、そのスマホを捨てた。

でも、新しいスマホにも、同じメッセージが届いた。

「今、あなたの背後に、誰かがいます」

振り返った。誰もいない。

でも、スマホの画面が、勝手に動いた。

カメラアプリが起動し、自撮りモードになっている。

画面には、小林の背後が映っていた。

廊下に、ぼんやりとした影が立っている。

中古スマホの画面