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知人がメルカリで中古のスマホを落札した。型落ちだが状態は良好、バッテリー交換済み、ロックも解除済み——要するに「そのまま使える」状態だった。

「カメラがちょっと汚れてるくらいで、あとは完璧だよ」

出品者のそんな言葉どおり、届いた端末は新品同然だった。SIMを差し込んで起動する。キャリアの設定が自動で入り、Wi-Fiに接続すると、いきなり「iCloudから復元しますか」というプロンプトが現れた。

知人は「あ、前の持ち主のアカウントがまだ残ってたか」と軽く流して、新規でApple IDを作り直した。写真も連絡先も、すべてゼロから始めた。

翌朝、目覚めるとホーム画面に通知が並んでいた。

「写真アプリに1,247枚の新しい写真があります」

知人は背筋が凍るのを感じた。自分では一枚も撮っていない。なのに、なぜか写真ライブラリに写真が流れ込んでくる。

最初の数百枚は、どこかの部屋のインテリアだ。白い壁、木の本棚、窓から差し込む朝日。知人は「前の持ち主のバックアップがまだ残ってたのか」と思い、写真アプリの設定から同期をオフにした。

しかし、オフにしても写真が増え続ける。

100枚、200枚、500枚……もはや同期のオン・オフなど関係なく、写真が自動的に追加されていく。まるで、どこかからこの端末に向けて写真が送信されているようだ。

知人が写真を開いていくと、だんだん奇妙なことに気づいた。

写真に写っている部屋は、どこかで見たことがある。白い壁、木の本棚、窓の向き。知人は覚えようとしたが、思い出せない。ただ、漠然とした「違和感」だけが残る。

そして、ある写真を開いた瞬間、知人は息を呑んだ。

写真に写っている本棚の隅に、小さなクマのぬいぐるみが置かれている。それを見た知人の脳裏に、強烈な閃光が走った。

「……あれ?」

知人は自分の部屋の棚を思い出した。子供の頃、母親が買ってくれたクマのぬいぐるみ。そのぬいぐるみは、高校生の時に引っ越しのときに捨ててしまったはずだ。

捨てたはずのぬいぐるみが、別の部屋の棚に、同じ角度で置かれている写真が、この端末のクラウドに保存されていた。

知人は震える手で、さらに写真を遡っていった。

写真の背景には、少しずつ別の部屋が写っている。台所、浴室、寝室。どれも「見覚えがあるけど、行ったことないはず」という空間だ。

そして最後の写真。

それは、知自身が今、スマホを手にしている部屋と、ほぼ同じ構造の部屋だった。窓の位置、天井の照明、ドアの開き方。唯一違うのは、知人が今座っているソファの代わりに、別のソファが置いてあること。

写真の右下にはタイムスタンプが表示されていた。

2026年8月20日 02:14

知人はその日にその部屋に行った記憶はない。むしろ、その日は家にいたはずだ。家族に確認しても、誰も外出した記憶はない。

知人は写真アプリを強制終了し、端末を再起動した。そして、その中古スマホを出品者に連絡した。

「この写真、なんでついてるんですか?」

出品者の返事は、3時間後に来た。

「写真? 写真なんて何もついてないですよ。このスマホ、カメラすらついてないですから」

知人は震える手で写真アプリを開いた。

写真ライブラリは空だった。

ただし、写真のメタデータは残っていた。撮影端末のモデル名、GPS座標、そして「作成日時」——。

GPS座標は、知人が今いる場所から、わずか300メートル先の地点を指していた。

その地点をグーグルマップで確認すると、そこには「空き地」として登録された、廃墟となったマンションがあった。

知人はその晩、中古スマホを捨てに行った。

廃墟マンションの駐車場に捨ててきた。その時、知人はふとスマホの画面が点灯するのを見た。

画面には、一枚の写真が自動的に表示されていた。

それは、今、知人がスマホを手にしている瞬間を、上から撮った写真だった。

写真の右下のタイムスタンプは、今、この瞬間を指していた。

知人はスマホをコンクリートの隙間に叩きつけた。画面は砕け、電源は落ちた。

翌日、知人は新しいスマホを買った。何もかもを作り直した。

しかし、新しいスマホのカメラロールにも、白い壁と木の本棚が写った写真が、一枚だけ入っていた。

タイムスタンプは、昨日の午後3時14分。

知人が中古スマホを廃墟マンションに捨てに行った時間だった。


この話は、知人が実際に経験した出来事を元にしています。中古のデジタル機器を買うとき、その「中身」まで買い取る覚悟がありますか?