亡くなった大家さんが、毎朝玄関の前に温かいお茶を置いていく
2026年08月16日
これは実際に僕の友人が経験した話だ。
友人は三年前、地方都市の一軒家を改造した古いアパートに引っ越してきた。築四十年ほどの木造アパートで、廊下は少し暗く、床が踏み込むと「キィ」と鳴る。大家さんは七十代の男性で、朝ごとに廊下を歩いている姿をよく見かけた。
「お茶でも飲むか?」とよく言ってくれた。緑茶を淹れて、隣の部屋の前でそっと置いていく。
引っ越して一ヶ月ほど経った頃の話だ。朝、玄関を開けると、前に湯呑みが置かれていた。蒸気が立ち上っている。中はお茶で、まだ温かかった。
「またお茶を置いてってくれたんだな」と友人は思っていた。大家さんは毎朝同じことをしていた。
ある日、友人は新聞で衝撃の事実を知ることになる。
その地方の新聞に、「〇〇町の大家・〇〇〇〇氏が死去、享年八十二」という訃報が載っていた。亡くなったのは三ヶ月前だ。
友人は背筋が凍るのを感じた。大家さんは三ヶ月前に亡くなっている。誰もアパートに住んでいない。お茶を淹れているのは誰だ?
それ以来、毎日朝、玄関の前に湯呑みが置かれている。毎日温かいお茶が入っている。
友人は怖くて大家の息子に電話した。すると、息子はこう言った。
「父さんは三年前に亡くなりましたよ」
友人は三ヶ月前だと言った。すると、相手は黙った。
「……父さんは、毎日お茶を淹れていましたよ。朝、玄関の前に置いていくんです」
友人は電話を切った。その夜から、玄関の前に湯呑みを置かなくなった。でも、次の朝、湯呑きはまたそこにある。
お茶はまだ温かかった。